理想の恋を利用して

縁乃ゆえ

死のうとしてた人と

暗い帰り道の途中で

 定時で終わった仕事帰り、この後の予定はいつも通り何もない。

 ただ一人で歩き、暗くなって行く街の中、コンビニを見つけて夜ご飯を買い、お金のかかる袋ではなく、ちゃんとした買い物バッグを手に持ち、帰り道で通る歩道橋の上の真ん中まで行った時、その人は居た。

 立っていた。

 それだけなら良かったのに、いつもは居ない人だから、それで良かったのに。

 その人は余計な事をした。

 何気ない動作。

 でも、それは死への恐怖もない感じの行動。

「ちょっと!」

 私は思わず叫んでいた。他に周りに人がいなかったのがいけなかったんだ。

 それはその人の行動を止めるべき行動ではなく、私に迷惑がかからない為の行動だった。

「何してるんですか?!」

 その人はちょっと驚いた顔でこちらを下に見た。

 どうしてもその人の方が背が高いから、こちらが上目遣いになる。

「死のうと思って……」

 当たり前のことを言われた。

「分かってます! だから、止めたんです! 死なれたら困るから!」

「どうして?」

 その人は言う。

「だって、嫌じゃないですか、赤の他人ですけど、目の前で死なれて、その後、私どうすれば良いんですか? 私、嫌です。そんな事で自分の時間取られるの!」

 言ってしまってから不味まずいと思ってももう後の祭りだった。

「だから、止めてくれたんだ」

 ははは……と彼は薄く笑った。

 その笑いは優しいとも感じられたけど、それだけだった。

「ねえ、君――」

 彼の名は原賀太玖はらがたく。私の彼氏になる人だった。

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