チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【38】ひとことで言うと「獣」【なずみのホラー便 第126弾】

なずみ智子

ひとことで言うと「獣」

【問題】


 妙齢の女性・未知(みち)さんには、好きで好きでたまらない男性がいました。

 「どうしても彼の恋人になりたい! ううん、彼と結婚したい!」と思い立った未知さんは、よく当たると評判の占い師の元を訪れたのです。

 手元の水晶玉を覗き込んだ占い師は、顔をしかめて言いました。

 「…………あなたの思い人は、ひとことで言うと”獣”です。この世の中に”危険な男”は多々いますが、彼が保有している危険度は相当なものですね。あなた自身のためにも止めておいた方が良いでしょう」

 ショックを受けた未知さんですが、「占いは所詮、占いよ。そもそも、男の人って多かれ少なかれ、ベッドでは獣になるものだし。獣になってくれないと、私も女としての自信を無くしちゃうし(笑)」と自分自身に言い聞かせることにしました。

 占いの結果がどうであれ、未知さんの心は最初から決まっていたのかもしれません。

 その後、未知さんは見事、彼と交際することになりました。

 ベッドインも含め、交際は順調すぎるほど順調に進み、あれよあれよという間に彼との結婚というゴールインにまで一直線です。

 しかし……新婚旅行先で未知さんだけが帰らぬ人となってしまったのです。

 ネットニュースで未知さんの死亡記事を読んだ占い師も、「だから、止めておいた方がいいといったのに……私が視た運命はやはり変えられなかったのね」と肩をガックリと落としました。

 さて、未知さんの身に何が起こったのでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : 未知さん、気の毒ですね……でも、この問題はすぐに分かりました。未知さんの夫となった男性の正体は、獣のごとき殺人鬼であり、未知さんも殺害されてしまったんですね?


チエコ先生 : NO。未知さんを殺害したのは、夫じゃないわ。


キクちゃん : え……? 占い師さんの言葉から、未知さんは夫に殺害されてしまったものだと思ったのですが……夫は「危険な男」であるわけですし。


チエコ先生 : もう一度、問題文をよく読んでみて。キクちゃんが占い師さんの言葉に注目しているのはいい線いっているわ。


キクちゃん : ……占い師さんは、後に未知さんの夫となる男性を「危険な男」で「彼が保有している危険度は相当なもの」とも評していますね。夫は裏社会に通じる人物でしたか?


チエコ先生 : NO。一般人よ。


キクちゃん : 普段から危険な世界で生きている人で、妻の未知さんまでもが巻き添えを食らってしまったわけではなかったんですね。となると、未知さんは誰に殺害されたんだろう? 未知さんを殺害したのは、未知さんが知っている人でしたか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : ……となると、未知さんは通り魔とか、全く面識のない人物に殺害されたのですか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : 未知さんは”誰かに”殺害されたのではないと。もしかして、私の質問の根本自体が間違っていたのかも……となると、未知さんは事故で亡くなったのですか?


チエコ先生 : YES……と答えるべきかしらね。奥歯に物が挟まった返答しかできないけど、彼女の身を襲ったことを”事件”ととらえる人もいると思うわ。どっちにせよ、彼女はこれ以上ないほどの苦痛と恐怖の中で、その生涯を”終えさせられた”のよ。


キクちゃん : 事故とも事件ともとらえることのできる状況で、相当に悲惨な亡くなり方をしたのですね。先ほどのチエコ先生の「終えさせられた」という言葉からすると、未知さんの命を奪った”加害者”は確実にいるようですし……これって、まるで未知さんは”人間ではない何か”に遭遇してしまって命を落としたとしか…………あ!


チエコ先生 : そうよ、正解のゴールはもうすぐよ。


キクちゃん : 未知さんは新婚旅行先で、獣害にあって亡くなりましたか?


チエコ先生 : YES。正解よ。彼女は生きたまま食べられたていったの。


キクちゃん : ……もう、気の毒なんて言葉じゃ言い表せません。あれ? でも、そうなると占い師さんの「……あなたの思い人は、ひとことで言うと”獣”です」にはつながりませんね。まさか、人間の言葉など通じない獣を夫が唆して、未知さんを襲わせたなんてことはあり得ないですし。


チエコ先生 : 唆すことは不可能でも、獣が生息しているであろうエリアに未知さんは誘導することはできるんじゃないかしら? まあ、場合によっては、夫自身の身にも危険は及ぶでしょうけどね。夫には、その危険を冒してでも”見てみたい光景”があったとしたら? その光景こそが、夫が真に求めていた性的興奮の起爆剤だったとしたら?


キクちゃん : 何てことでしょうか!? 占い師さんの「ひとことで言うと”獣”」は、危険な男のこのうえなく残酷な性癖を指していたんですね。でも、よくよく考えると、占い師さんも鮮明に視えていたのなら、未知さんにそのまま伝えてあげていたら良かったと思うんです。それを信じるか信じないかは、未知さん自身が決めることですし。


チエコ先生 : そうね……それを聞いていたとしても、「占いは所詮、占いよ」と、すでに心が決まっていた未知さんの人生の分岐点での選択は変えられなかったのかもしれないけど。大抵の人間は、他人の言葉よりも自分の心を信じるものだからね。



(完)

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