革命の魔法使い
すうぃりーむ
第一章 魔法使い達の学校
第1話 プロローグ
焦茶色の家具で統一され、本棚に埋め尽くされた難しそうな本の数々からは派手さのあまりない控えめな部屋という印象を受ける。
この家は比較的田舎の方に位置しているため、外を覗くと、春が近づいてきているからか、色とりどりの植物が咲いているのがわかる。
その中には、春の代名詞とも言える桜が、遠慮がちに、それでも存在感を放ちながら少しずつ咲いているのが見えた。
「フォルン。忘れ物はないか」
春の代名詞とも言えるピンク色の花に心を奪われていると、背後からいきなり扉の開く音と共に、話しかけられる。
振り返ると、彼の父親である初老気味の男が部屋の前で立っていた。
「ああ父さん。忘れ物はないと思う。もうそろそろ行ってくる。というか、ノックくらいはしてくれよ。ここは俺の部屋なんだから」
「そんなことを言われてもな。お前ももう感知の魔法ぐらい使えるようになっているし、もう意味はないだろ」
勘弁してほしいものである。
こんな軽口を言っているが、これでも父は相当な実力を持つ魔法使いだった。
そんな父に、やっと魔法学園に入った俺が魔法の領域に敵うはずがない。
「勘弁してくれよ...。まだまだ父さんたちには及ぶわけがないだろ?」
「はっはっは。まあこれから頑張っていけばいいさ」
笑っている父を横目に、左手首に目を向ける。
腕時計を確認すると、時刻は九時を指していた。
入学式は予定では十時だったはずなので、そろそろ家を出なければいけない時間である。
「まあそうか。それじゃ、俺はそろっと行ってくるよ。帰ってくるのは夏頃になると思う」
「ああ。無理だけはするな」
「それは、骨を折ったりするとか重傷を負うなってことでいいか?」
俺が笑いながら冗談を口にすると、父も苦笑いしながら答える。
「バカか。それに、お前はもうそんなん重傷にはならねえだろ」
「それは心外だな」
「お前もう回復魔法一通り使えるし、片腕でも戦えるぐらいの強さは身についてるだろ」
魔法使いの戦闘では様々な事態が想定される。
その想定できる範囲内のことすべてに対応できるようにならなければ、魔法使いとして強くはなれないだろう。
小さい頃から鍛錬を積んできたおかげで、ある程度の回復魔法も使えるようにはなった。
それでも得意かと言われれば自信は持てないが。
「死なない程度に頑張れってことだよ。魔法使いが未知を目指す生き物っつっても死んだら元も子もねえからな」
そう言って父さんは部屋を出かけていた俺の肩をポンッと叩く。
その通りである。
命を懸けて、なんて場面は魔法使いである以上いくらでも遭遇するだろう。
例えば強敵とバッタリ遭ってしまったとき。
例えば仲間が魔法に呑まれてしまったとき。
例えば己の全てを懸けて魔法の道を確立しようとするとき。
考えうる限り様々な場面が存在するのだ。
「分かったよ。無理はしない。それじゃ、行ってくるよ」
「ああ、いってらっしゃい」
そう言ってフォルンは階段を下り、玄関のドアを開け、桜色に染まった道を歩いて行った。
「魔法使いである以上、これからの道は険しく辛いものになっていく。これからの時代はなおさら、な」
彼の父親はそう呟いた。
魔法使いを取り巻く環境は必ずしも光という訳ではないのだ。
権力争いや僻み妬みによる差別。
輝きすぎる星はどうしても目立ってしまう。
むしろ、その環境を思えば今の魔法使いの界隈は腐っていると言える。
権力と力に溺れた者たちが後世にどういった影響を残していくのか。
少なくとも良い影響を残すとは考えられない。
そんな正しく魔境の時代を生きていくであろう息子を思いながら彼はこう思う。
「ま、あいつなら何とかなるだろ」
その呟きは誰にも届かず、ただ辺りに響いて消えた。
魔法使いには力が必要である。
そんな過酷な世界をどう乗り越えていくか。
彼の、彼らの物語は今始まったのだ。
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