地獄に落として差し上げましょう

「協力、ですか?一体何をするのですか?」


「旦那様の態度改めさせます……と言いたいところですが難しそうですので、旦那様に制裁を加えましょう。いかがですか、協力していただけますか?」


「ほお……メアリー様はなかなか大胆ですね。良いですよ、協力しましょう」


こうしてハロルドと私は協力関係になったのです。

最初は、仕事放棄の実態を記録をしたり、不倫の調査をするだけでした。

それでもお互い仕事をしながらでしたので、記録や証拠集めには一年近くかかってしまいました。


その一年の間に、旦那様はブティックの顧客に手を出し始めたのです。

なぜそんな私の神経を逆撫でするような相手を選ぶのかは理解不能ですが、明確な契約違反です。

ハロルドからその事実を聞いたとき、思わず喜んでしまいました。


「なんて嬉しい知らせでしょう。ただの不倫では契約違反にはなりませんが、これで旦那様を糾弾できますね」


あまりに私が喜ぶので、ハロルドは若干引いているようでした。


「そう、ですね。そろそろ証拠も集まってきたことですし、先代公爵と話をしてみるのはどうでしょう?公爵の現状には目を瞑っているようですが、メアリー様が訴えかければ少しは考えを改めてくれるかもしれません」


先代公爵であるお義父様とは数回しか会ったことがありませんでしたが、静かな方でした。

体調が優れないということで、旦那様に爵位を譲渡して悠々自適に暮らしていると聞いています。


息子には関心がなさそうですが、領地の平穏が脅かされると聞けば、動いてくれるかもしれません。


「分かりました。まずは手紙を出してみます」



――――――――――

ジョン・ラングトリー様


突然のお手紙、失礼いたします。

ノーマン様の素行について相談があり、筆を執った次第です。


彼が結婚前から派手に遊んでいらっしゃることは、お義父様もご存じかと思います。

もちろん、私はそのことについてお義父様に相談したい訳ではありません。

夫婦間で解決する問題であると心得ています。


しかしながら彼は領地の仕事を全て、ハロルド・ローフォードに任せて遊んでいるのです。

そして仕事の成果を全て自分の手柄としています。


ハロルドは大変優秀です。

彼がノーマン様を見限れば、領地は立ち行かなくなるのは明らかです。

そうなる前に現状をどうにかしたいのです。


はっきり申し上げますが、ノーマン様は領地を治める人間の器ではありません。

どうかお義父様にはご理解いただきたく存じます。


ノーマン様の爵位返上にご協力くださいまし。



メアリー・ラングトリー

――――――――――



先代公爵に手紙を出したところ、意外にもすぐに返事がきました。

そこには謝罪と驚くべき提案が綴られていたのです。



――――――――――

メアリーさん


愚息が大変迷惑をかけたこと、親として大変申し訳ない。

離婚をするなら支援するので、協力出来ることがあれば遠慮なく言いなさい。


愚息の爵位を返上させることは難しいが、領地を取り上げることは出来る。

実は領地の所有権は、まだ私にあるのだ。

メアリーさんが良ければ領地を任せたいと思うが、いかがだろうか?

無理にとは言わない。ハロルド・ローフォードに任せても良いと思っている。


ハロルドにも公爵代理の役職を与え、自身の裁量で動いてもらうことにした。

そうすれば領民からの信頼を得られ、愚息の後ろ盾も必要なくなるだろう。

愚息に手柄を盗られることもなくなる。

私も彼を失うのは惜しいからな。


詳細は後日会って話そう。

愚息の素行の悪さは、私の教育不足だ。本当に申し訳ない。



ジョン・ラングトリー

――――――――――


爵位返上という無理難題を提案したところ、現実的で素晴らしい提案をしてくださったのです。


「やりましたわ!先代公爵は私達の味方になってくれるようです。これでハロルドの待遇も改善されますよ」


「メアリー様のおかげですよ」


ハロルド宛にも同様の手紙が届いたようで、いつも無表情だったハロルドの表情がようやく綻びました。





それからはあっという間でした。

お義父様は私に領地を譲渡してくださり、公爵代理のハロルドが実権を握りました。


領民の信頼を得るために約一年間、この体制で領地を治めていましたが、旦那様は全く気がつかなかったようです。

領地に全く興味がなかったのでしょう。


計画が上手くいったのは、旦那様のおかげでもありますね。

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