36-3
バルドの希望になるもう一つの話も伝えておくことにした
「それにねバルド」
「?」
「作業に慣れてこの3種類がきちんと作れるようになった後の話なんだけどね」
そこで言葉を切るとバルドの表情が険しくなった
打ち切られるとでも思ったのだろうか?
「新しいデザインのものを作って売り物になればデザイン料として1000Gだそうよ」
「!」
バルドが目を見開いた
100Gで大喜びしているだけに桁が変わると驚きでしかないのだろう
デザイン料は1デザインにつき1度だけの支払いだとしても、何かの対価としてその金額を手にするのは簡単なことではない
今までお荷物と言われるほど自分では何もできないと思い込んでいただけに余計かもしれない
「だからね、それを励みにして頑張って練習してね?」
「わかった!」
かなりのはしゃぎっぷりである
バルドの集中力はかなりのもので夕飯の支度を始めるまでに2つを作り上げていた
「どんどんうまくなってるんじゃない?」
ナターシャさんが作った順に並んだオーナメントをじっくり眺めて言う
「接着剤の量とか水の量とかちょっとわかってきた」
細工物は単調な同じ作業を繰り返すだけに向き不向きは完全に別れる
自分なりに考えながら取り組めるバルドは向いているのだろう
「どうだ?」
キッチンまできたレイが小声で尋ねる
「思ったよりはるかに出来がいいかも」
「まじ?」
「嘘ついても仕方ないでしょ。バルドは要領もいいしちゃんと考えながら作業してるみたいだから伸びしろも大きいんじゃないかな?」
「要領?」
「材料切るとき最初は全部測りながら切ってたけど2つ目の途中から定規に印をつけていちいち測るのをやめてたみたいね」
「へぇ…」
レイが興味深そうに頷きバルドを見る
「水の量もね、手につける量じゃなく材料の状態で判断してる。あの辺は持って生まれた感覚的なものだからそう言う意味でも期待はできると思うよ」
それゆえの目に見えた上達だ
「どれくらいで売り物になりそうだ?」
「そんなにかからないんじゃないかな?あの調子じゃ1日中やってそうだし2~3か月で最初の5つが溜まると思うよ」
「確かにな。けどずっと作業ばっかってわけにもいかないだろ?」
「その辺は体調にもよるだろうけどこっちから促せばいいんじゃない?午前中はマリクたちと遊ぶとか読書に時間を設けるとか…」
「なるほどな。まぁ庭で遊ぶのは薬草採取も入るんだろうけど」
「だね」
2人笑いながらバルドの成長が楽しみだった
「あら、マリク出て」
魔道具の音にナターシャさんが言う
「僕も行くー」
マリクに続いてリアムも玄関に走った
「「リルお姉ちゃんお帰りー」」
「ただいま。マリク、リアム」
2人と一緒にリル入ってくるのにも気づかずバルドは作業を続けていた
「バルドは一体?」
テーブルに向かってひたすら何かをしているバルドにリルが首を傾げた
「オーナメントづくりの練習よ」
「え?もう?」
「かなり見込みがあるわよ」
驚くリルにそう言うとさらに驚いた顔になる
「…昔から器用で気に入ったことは夢中になるような子だったけど…」
「この調子でいけばリル達が週に1日休めるようになるのもそう遠くないかもね」
「え…?」
「トータさんに聞いた。パーティのみんなが気を使ってくれてるんでしょう?」
2人分の生活費に加えてバルドの薬代も稼がなければならない
依頼の報酬はみんなで等分しているがリルには休んでいる暇がなかったのだ
パーティーのみんなも最初は休んでいたもののリルが休みの日に一人で依頼を受けているのを知って順番に休みを取りながら協力してくれているようだ
流石は幼馴染というべきか?
「あのオーナメント、練習して売り物レベルになれば1つ100Gで買ってもらえるの」
「そんなに?」
「それ聞いてバルドの集中力がさらに増したわ」
そう言って苦笑する私の横でリルはただまっすぐバルドを見ていた
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