第25話 新しい家
25-1
他愛ない言葉から始まった二世帯住宅は瞬く間に完成し今日から住むことになった
そのお披露目も兼ねてアランさんとメリッサさん、トータさんとも落ち合った
マリクが建物の周りで走り回っている
「ママ早く」
「そんなに慌てなくても家は逃げないわよ?」
ナターシャさんは呆れたように笑う
場所は町から歩いて20分ほどなのでトータさんやアランさん、メリッサさんも立ち寄りやすいはずだ
少しずつ準備してきた家具なども昨日までに運び込まれている
「よし入るぞ」
カルムさんが扉を開けた
広い玄関ホールを通り抜けるとゆとりのある対面キッチン、大きなテーブルを備えたダイニングスペース、その奥に横に広いリビングが広がり窓からは広い庭が見える
「すごーい!」
マリクが部屋の中を走り回っている
1階には3つの部屋と水回り、2階には水回りを備えた広い寝室と普通の部屋が1つ、3階には部屋が2つと水回りが、共有部を中心にして左右同じように配置されている
「トータの部屋はカルム側、アラン達の部屋はこっちの一番奥な。中の荷物は運んである」
レイがそう言うとアランさんとメリッサさんは嬉しそうに顔を見合わせていた
「手前の2部屋は奥が書庫、手前をチビのおもちゃスペースに充ててるから自由に使ってくれ」
「おもちゃ、マリクのも?」
「ああ。シアと仲良く使え」
「うん!一緒に使う」
マリクは嬉しそうに頷いた
「おもちゃ、見てきてもいい?」
「あぁ、いいぞ」
レイが頷くとマリクは玩具部屋に駆けこんでいった
「トータも一番奥にしてある。手前の2部屋空いてっからそっちのが良ければ勝手に移れ」
「奥のままでいいって。部屋があるだけでありがたい」
トータさんも嬉しそうだ
「キッチンがすごいですね?」
メリッサさんが見とれている
「基本的にサラサちゃんと2人で使うのが前提だからね」
ナターシャさんは自分の望みが全て反映されたキッチンを見て満足げだ
4口のコンロと広めの流しが2か所に設けられていて作業スペースも豊富にある
魔道具の冷蔵庫は大きめのものを追加して、今まで使っていた小さめのものはドリンク専用にすることになった
マリクが自由に飲めるように棚の低い場所には以前と同じようにグラスを入れマリク用の作業台も設置済みだ
ダイニングテーブルはゆったり5人ずつが並んで座ることができる
誕生日席を入れれば12人までは同時に使えるようになる
当分の間メリッサさん含めみんなで集まってもこちらで食事ができるようにしたのだ
リビングには3人掛けのソファとソファテーブルを2つずつ、ソファの向かい側に1人掛けのソファを2つずつと子供用の丸太の椅子を4つ適当な場所においてあるが、軽い木を使っているのでマリクでも好きな場所に動かせる
床にそのまま座ったり寝転がったりすることも多いので大人が乗っかれるサイズのビーズクッションも4つほど置いてある
「集まるのが前提になってんな?」
「当然だろ。アランとこに子供ができようとトータが嫁貰おうと集まるのは変わんねぇからな」
カルムさんが嬉しそうに笑いながら言った
「このクッションいいな?めちゃくちゃ気持ちいい」
「商業ギルドに登録済みだ」
トータさんの言葉にレイはすかさず言う
「2週間くらい前ですよね。私も気に入って予約済みですよ」
メリッサさんが言う
「まじ?俺のも予約しといてくれ」
トータさんがすかさず依頼するとメリッサさんは2つ返事で同意した
「トータも早く結婚しろよ~?」
「そうよトータ。ここで4家族が揃うのすっごく楽しみ」
ナターシャさんは一人妄想の世界に突入していった
「今はまだ子供も2人だけどこれからどんどん増えていくはずだしな。そういう意味でもこの家建てたのは正解だ」
カルムさんがリビングの一角を見ながら言う
そこには子供が遊べるスペースを設けてあるのだ
「マリクが落ち着いたら2人目引き取りたいしね」
ナターシャさんも言う
2人は既に次に引き取る子供を探し始めている
シアを構うマリクがあまりにも健気で、弟か妹をと思うのも仕方がないのかもしれない
それでなくても子だくさんの家庭で育った2人が兄弟を増やそうとするのは当然なのだろう
この様子だと2人目を引き取るのはそう遠くない未来のことだろう
「…実はみんなにお知らせが」
リビングで飲み物とお菓子を堪能しているとメリッサさんが切り出した
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