23-5
男をつなぎ留めるために犯罪を犯した母
命の保証はないと冷たい笑みを浮かべて言い放った父
その血を引いていることに後ろめたさも感じていた
それは自分の行動の結果が自分だけの問題でないではないのだと理解るには充分すぎた
生まれる子供は選べないと罵られながら、同じように親も選べないけどと心の中で言い返していた
選べるならせめて、まともな母性を持った人のもとに生まれたかったと思っていた
少なくとも生まれて来ることを望んでくれる親がよかったと…
そんな私が今世ではいきなり17歳の体で生を受け、母性を持った母親どころか、母親と呼べる存在すらいないのだから何とも言えない虚しさがある
もちろんどうすることも出来ないと分かってはいるけれど…
「シアには絶対、あんな思いさせないからね」
まだ必死に母乳を飲むシアに呟くように言う
「…あんな思いって?」
「!」
背後から掛けられた言葉に固まった
「レイ…いつから…」
「さっき。で、シアにさせたくないあんな思いって?」
「なん…でもないよ?過去をちょっと思い出しちゃっただけだから…」
その言葉にレイは何も言わずに母乳に満足したのだろうシアを抱き上げゲップさせた
「過去って前世?」
無言のままうなずくとしばらく沈黙が続いた
その間もレイはシアをあやし、眠ってしまったシアをベビーベッドに寝かせた
少しの間愛おしそうに眺め頭を優しくなでてから目を離す
「虐待されてたんだっけ?母親にも養父母にも」
レイはソファテーブルに腰かけてまっすぐ私を見た
おそらく最初から気づいていて全部聞いていたのだろうと悟る
「そういや父親の事は聞いたことなかったな?」
記憶をたどりながらつぶやくように言う
「…生物学上の父親は私が母のお腹の中にいる頃から自分の子供だとは認めてなかったから」
「は?」
「父には生まれる前から否定されて、そのせいで母から何度も殺されかけてたの」
「な…んだって?」
レイの顔がゆがむ
そこには明らかに怒りが見て取れる
子供が宝とされるこの世界では信じられないことなのかもしれない
「私は母にとって道具だったの」
「道具?」
「そう。道具。母が父を引き留めるための道具。愛人から妻になりたくて犯罪まがいのことして宿したのが私。でもその全てをおぞましく思った父は母を捨てた」
そう言いながらそれが前世のスタート地点だったのだからあの人生も頷けるとどこかで思う
「犯罪まがい?」
「薬を盛って眠らせた父に、通常より濃度の濃い媚薬を与え続けた。父の護衛に見つかるまでの1か月の間ずっと…その時に身ごもったのが私。当然父はそれを許すことが出来なくて母に報復を与えた。だから私は母にとって最も憎む存在になったの」
そう言った瞬間レイに抱きしめられていた
「だからだったんだな…」
「え?」
「シアができたと知った時も、生まれた時も…俺を見る目は不安そうだった」
「そんなこと…」
ないとは言い切れなかった
確かに不安に押しつぶされそうだったのだから
子供ができたことを喜んで、受け入れてくれるだろうかと
生まれた子供を愛してくれるだろうかと…
同時に自分自身、子供を愛せるという自信もなかったのだから
でも不思議なものでお腹の中の子供を大切に守って無事に産んであげたいと思っていた
生まれたシアをただ愛おしいと思った
その思いは消えることなく日々大きくなっていく
「俺はシアを愛おしいと思ってるよ。サラサと俺の血を引く大切な子どもだ」
「レイ…」
「サラサと一緒にシアの成長を見守っていくこれからが楽しみで仕方ない。サラサの事もシアの事も愛してるし、何があっても守るよ」
そう言ったレイの口づけが落ちてくる
額に、瞼に、頬に、そして唇に
優しい口づけを私はただ受け止める
それだけで肩の力が抜けていくような気がした
「それに、この先2人でも3人でも…何人出来ても大歓迎だ」
頬に手を添え囁くように告げられる
「その全てを愛して守って見せる」
「ありがとぅ…」
自然と涙が溢れてきた
望む言葉を簡単に与え、沈みそうになる心をレイは当たり前のように引き上げてくれる
レイの言葉は全て行動の伴うものだと知っていた
私はこの時初めて、今が前世とはかかわりのない人生なのだと感じていた
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