23-4
朝日の差し込み始めた部屋の中で泣き声が響いていた
レイはまだ眠ったままのようだ
寝ぼけた目を擦りながらベビーベッドに寝かせていたシアを抱き上げる
「おはようシア、お腹すいちゃった?」
優しく語りかけながらあやし続けると少しずつ落ち着きを取り戻す
「さぁ、ごはんにしようか」
ソファーに座って母乳を与えると勢いよく飲み始めた
その姿を見て心から愛おしいと思う
小さなその背をなでながら、シアの温もりを感じるだけで自然と笑みがこぼれてしまう
この日、穏やかで幸せな時間を過ごしながら、私はすべきではないことをしてしまった
過去に思いを馳せるという愚行
それが私自身に何のメリットももたらさないと知りながら…
◇ ◇ ◇
「今日が最後ってどういうこと?!
まだあどけない面影を残した女が2人の男と共に部屋から出て行こうとする男に縋りつく
「離してくれ。君はルールを破ったんだ。いや、それだけじゃなく俺を裏切った」
「そんなことない!私はちゃんと守ってたわ」
「だとしたらその子は俺の子ではないだろう?ルールを守っていたら出来るはずがないからな」
冷ややかな目が女を見ていた
「でも私はあなたが来る前にあなたの部下にピルを飲まされてるし、あなたが帰る前にアフターピルも飲まされてるじゃない。あなた自ら…!」
「当然だ。そういう契約だからな」
その言葉に男はため息をつく
「だったらちゃんとルールは守ってるじゃない」
「いや。朝まで共に過ごさないというルールは守られていない」
「それは…」
「お前は俺が来た日に禁忌の睡眠薬を盛った。眠ってる間に場所を移して通常の数倍の濃度の媚薬を飲ませた」
「そうよ。あなたは初めて私を何度も抱いてくれたのよ。1か月の間寝る間も惜しんで求め続けてくれたじゃない。あの
女の身勝手な持論がよどみなく繰り広げられる
「
「…その子を俺の子とは認めないしお前への報復もさせてもらう。今後俺に近づくことがあればお前の命の保証はない。それがただの脅しでないことは、
男はそう言って部屋を出て行った
その日から女は転落の一途を辿った
まともな仕事に就くことも出来ず、下ろせと言われるのを恐れて時間を置いたお腹の中の子供は当然、堕胎可能な時期を過ぎていた
流れるようにと自らの腹を攻撃し、それでも生まれてきてしまった子供をまともに育てようとはしなかった
いら立ちをぶつけるように虐待し泣けば泣き止むまで殴り続ける
それがその子供に与えられた日常だった
近所からの訴えで警察に保護されるまでの1年間、生き延びたことが奇跡とさえ言われるほどひどい環境だった
◇ ◇ ◇
そこまで思い出し目を開けた
「はは…ほんとに最低な人だったなぁ…」
こぼれた言葉は自らに突き刺さる
この異常な女が私を生んだ母親なのだと思うと吐き気がする
そう、私には前世だけでなく母親のお腹の中にいる頃からの記憶があるのだ
「お腹の中にいた頃の記憶なんてみんなと同じように消えてくれればよかったのに」
それはずっと望み続けたことだった
新しく覚えたはずの事はいくらでも忘れていくのに、消し去りたいその記憶は薄れることすらなかった
何かが起こる度に引き戻される場所となってしまった、この最初の記憶はもはや呪いでしかなかった
自分が生まれてきたのは間違いだったのだと突き付けられるだけの記憶
子供の頃はどういう意味かは理解できていなかったけど、自分が愛されていないだけでなく、可能であれば殺されていた存在だということは分かっていた
大きくなるにつれて母のした行為の意味が分かるようになると自分の未来はドス黒く塗りつぶされていった
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