第22話 梅雨

22-1

6月に入り雨の日が増えた

空の薄暗さとジメっとした空気に少し憂鬱になる


「あ~いい加減何とかならないかなぁ…?」

ナターシャさんがソファにもたれかかり天井を仰ぐ


「ママお外行かない?」

「ん…雨降ってるからねぇ」

マリクの問いに外を見る

もう1週間雨が降り続いていた


「みんな雨でも依頼は受けてるよね?」

「まぁね。雨避けの魔道具とかもあるし問題はないんだけど…」

「気分的な問題?」

「そうね。子どもの頃からどうも好きじゃないのよ。このジメ~っとした感じ?」

心底イヤそうに言うナターシャさんに思わず笑ってしまう


「除湿器とかないもんねぇ…」

「除湿器?」

「あ、うん。こういう湿気を減らすための道具…かな」

「そんな素敵なものが?」

「うん。空気から熱を奪って温度を下げた時の水分を外に出して…とかそんな感じだったと思うけど詳しいことはよく知らない」

そう言いながらも創造を使えばできそうな気はした

あえて言葉にはしないけど


「湿気はともかく雨だけでも上がって欲しい。太陽が恋しいわぁ…」

「晴れたらお外で遊べる?」

「そうね。晴れたら思いっきり走り回ろう」

「うん!」

マリクは嬉しそうに頷いている

2人はよく外で走り回っているだけにそれが出来ない日のマリクはお昼寝もあまりしない


「じゃぁ晴れるようにてるてる坊主作ろうか」

「てるてるぼうず?」

「明日は晴れますようにって願いを込めて軒先につるすお人形」

「作る!」

マリクが食いついた


「じゃぁ準備しよう。どうしようかなぁ…」

紙が貴重なこの世界でティッシュを使うのはちょっと気が引ける

この世界の常識を持ってる大人ならさして問題なくともマリクはこれから色んなことを知っていく


「よし、布で作っちゃおう」

生地は豊富でかなりストックしてあるため柔らかい生地と防水効果があり柔らかめの物を選んで準備する


「あとは紐かな」

「これでできるの?」

「そうだよ~」

テーブルに並べてるものをマリクは興味深そうに見ている

いくつか作れるように布をカットしていくとナターシャさんも覗き込む


「じゃぁマリク作ろうか」

一通り準備を済ませてからそう言うとワクワクしてるのが見て取れる


「まずこっちの柔らかい布をこうして…」

「クシャクシャ?」

普段ならそんなことをしたら怒られるのにと少し不安そうに見ている


「そう。クシャクシャって丸めるの。やってごらん?」

「うん」

普段できないことをやれるとあって楽しそうだ

小さな手でクシャクシャと丸めていく


「これでいい?」

ほっておくとすぐ開いてくるもののある程度丸まっているようだ


「うん。大丈夫そうね。次はナターシャさんにも手伝ってもらって…」

「何々?」

こっちも随分乗り気だ


「今丸めたのにこっちの四角い布をかぶせて…」

目の前でやって見せる


「で、こんな風に紐で結ぶ」

「あ、なんか可愛い」

2人は協力しながら紐を結んでいく


「でしょう?あとはこうして頭のてっぺんにつるす糸をつければ出来上がり」

指からぶらんと下げて見せるとマリクの目が輝いている


「ママ早くつけて」

「わかった。ちょっと待ってね」

針を使うのは流石に無理だとナターシャさんが糸をつけている


「よし、出来た」

「やった!」

マリクは嬉しそうに受け取って指にぶら下げる


「何か可愛いわぁ」

「マリクが持つと可愛さ倍増」

2つのてるてる坊主を持って走り回るマリクをしばらく2人で眺めていた


「お姉ちゃんコレどこに飾るの?」

「お外だよ。ナターシャさんそこの軒下につるして?」

「OK」

ナターシャさんはマリクから受け取って早速窓を開けて軒下につるした


「てるてる坊主てる坊主 明日天気にしておくれ~」

思わず口ずさむと2人がこっちを見ていた


「なーに?その歌」

「え?あーてるてる坊主の歌」

思わず口ずさむとか…本当に不思議なものだと思う

私自身、大して作った記憶も歌った記憶もないはずなのに


「本当は長いらしいけど私はこの部分しか知らないのよね」

そう、本当にこの部分しか記憶にない

でもてるてる坊主を見ると何故か口ずさむ

…と首を傾げていたらマリクが歌いだした

しかもひたすらリピートしている


その時みんなが入ってきた

「何事だ?」

マリクが歌ってるのを見て顔を見合わせている


「パパ!おかえり」

「おう、ただいま。で、何の歌だ?」

駆け寄ってきたマリクを抱き上げながらカルムさんが再び尋ねる


「てるてるぼうずのうた!」

「てるてるぼうず?」

「ふふ…明日晴れますようにっていう願掛けみたいなものかな?」

私はそう言いながら軒先を指さした


「人形?」

「てるてるぼうず!」

トータさんの言葉をすかさず訂正するのがまた可愛い

その後もマリクが何度も歌い出し、気づいたら皆も口ずさんでいた

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