16-2
「私としてはアランとメリッサの変化も楽しみなんだけどね」
「えー?」
突然矛先を向けられたメリッサさんが面食らう
「ナターシャさん私たちは幼馴染の延長みたいなものだし…」
「わからないわよ?だってあなたたち1か月なんて長い時間2人きりになったことないでしょう?」
「2人…」
その言葉にドキッとする
挙式後これでもかというほど意識した時間は特別なものだった
「確かに…今から2人でって改めて言われたら変に意識しちゃいますよね」
「でしょー?私もそうだったわー懐かしい」
ナターシャさんは少々興奮気味だ
「だからメリッサも覚悟しときなさい?普段2人で過ごしたーいとか、ちょっとおでかけーなんて状況と比べ物にならないから」
「私たちはそんなことないです…私ちょっとお手洗い!」
メリッサさんが逃げるように出て行く
「ナターシャさんいじめすぎです」
「あの子たちはあーでもしないとお互いを意識しないのよ。だいたい挙式ベイビーの出生率8割超えてんだからいい加減自覚すればいいのに」
「8割?!」
「あら知らなかったの?」
「はい」
私は素直に頷いた
「でもちょっと考えれば想像できるでしょう?」
「あーんな誓い立てた直後の2人だけの1か月なんて他にすることないんだから」
何とも残念な言い方だ
「私達みたいに子どもができない身体とか元々出来にくいとかじゃしょうがないけどまぁ大抵出来ちゃうでしょ」
「え?ナターシャさんたちって…?」
「言ってなかった?子供の頃の病気のせいで私は子供ができないのよ。カルムもそれ知った上で結婚してくれたんだけどね」
「…そうだったんだ」
何となくそれ以上の言葉は出てこなかった
挙式ベイビー8割以上の世界でそこから外れるのがどういう気持ちなのか想像もできない
もちろん自分がその2割に入る可能性も十分あるんだけど…
「そんな悲しそうな顔しないでよね。今は私もカルムも冒険者を楽しんでるし、そのうち代わりが見つかったら私は引退して孤児を引き取る予定だから」
そこには強がりのようなものは感じなかった
きちんと受け止めて前向きに考えているのが伝わってくる
「そっか。でもナターシャさんの代わりってあてはあるんですか?」
「あると言えばあるし、ないと言えばない」
「?」
「ふふ。レイと交渉中よ。今でもしょっちゅう一緒に組んでるから多分大丈夫じゃないかしら」
「…知らなかった」
「サラサちゃんは反対?」
少し心配そうに尋ねられる
「…反対ではないかな。レイに実力あるのはわかってるけど1人で依頼受けるのはやっぱり心配だから。今でもみんなと一緒に行く日は安心できるし」
それは率直な気持ちだ
「といってもレイの気持ち次第ですけどね」
「もーほんとレイにはもったいない」
ナターシャさんに抱きしめられているとメリッサさんが戻ってきた
「…ナターシャさんのせいで変に気になっちゃう…」
メリッサさんが顔を真っ赤にしてつぶやいた
戸惑いと喜び、期待、そんな色んな感情が入り混じってる感じだろうか
「それでいいのよ。幼馴染の延長なんて言ってないでお互いに意識して意識されながら楽しまないと」
「ナターシャさん…」
「覚悟しなさいメリッサ。意識しだしたらもう元には戻れないから。それにアランもBランクとはいえAランクに近いしね」
「…っ!」
メリッサさんの反応は明らかに冒頭の話を思い出している
「意識しちゃったアランの絶倫、楽しみね。今までは家族的な愛情だったからアラン自分で抑えれるのかしら?ねぇメリッサ?」
ナターシャさんはにっこり笑いながら爆弾を投下した
追い打ち半端ない…
この人は間違いなくカルムさんの奥さんだと思ってしまう
メリッサさんの顔はどんどん赤みを増していく
「カルム達もアランを煽ってると思うから楽しみにしてなさいね」
「アランを煽るって…そんなことしても意味ないんじゃ…?」
「本当にそう思う?メリッサ自身がこうして意識しちゃってるのに?」
「…」
「身も心も沢山愛してもらいなさいね」
ナターシャさんは心底楽しそうだ
結局かなりの時間をナターシャさんがメリッサさんをからかうことで費やした
「…そろそろ夕飯の支度するけど2人はどうします?」
メリッサさんがタジタジになってきたところで話題を逸らしてみることにした
「ご馳走になりたいのはやまやまだけどカルムが待ってるから帰るわ」
「私も準備があるからまた今度に」
2人は少し考えてからそう言った
「了解」
メリッサさんがマジックバッグに伝統衣装をしまい2人は帰っていった
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