第14話 プロポーズ

14-1

ミュラーリアに来て2年が経った

たった2年なのに色々あったなと思う

しかもその間に私もレイも命を落としかけたのだからなおさらだ


スタンピード以降私が1人で依頼を受けるのを嫌がっていたレイも、ようやく低ランクの依頼だけは1人で行くのを許してくれるようになっていた

それでも1人で依頼を受けた日は殆ど抱きしめられていることを考えれば色々と我慢してくれているのだろう


転生記念日ともいえるこの日、目を覚ますなりレイから出かけようと誘われた

「どこいくの?」

レイにしては珍しい誘い方に問いかける


「行けばわかるよ」

どこか含みのある言い方を不思議に思いながらも楽しみの方が先に立つ

朝食を済ませて準備ができるとすぐに出かけることになった


馬に乗せられ走る場所は初めて通る道だった

それなりにいろんな場所を回ったと思っていたけどまだまだ知らない場所も多いようだ


いつもなら軽口をたたくレイが今日に限って無言のまま馬を走らせる

そのことにわずかな不安が顔を出す

それでも自分を支えてくれるレイの温もりにその不安を何とか消し去っていた


「ここだ」

そう言ってレイが馬を止めたのは30分ほど走った後だった

先に降りて私を抱き下ろすと手を引いて歩き出す

奥に進むにつれて密集していた木々が少しずつ開けていくのが分かる

そして木々の隙間から見える景色に、その先に湖だろう水場があるのが分かった


「綺麗…」

開けた場所に着いたとたんそうつぶやいていた

それ以外の言葉が見つからない

まわりの木々の隙間から光が注ぎ水面が幻想的な光に包まれていた

この世のものとは思えない美しい世界が目の前に広がっていた


「こんな素敵なところがあったなんて…」

立ち尽くす私をレイが背後から抱きしめている

その温もりに包まれながらこんな景色が見れる日が来るなど思ってもいなかった


「こんなに喜ぶとは思わなかった」

「喜ぶよ?だってこんな景色初めて見たもの…」

レイは景色に見入る私を少しの間楽しそうに堪能していた


「サラサ」

「なーに?」

暫くしてレイに呼ばれて振り向いた

レイは私の左手をとると手首に何かを付けた


「…っ!」

私は反射的にレイを見た

私の手首に収まったそれはミスリル細工のブレスレットだったからだ


その意味を私はナターシャさんから聞いたことがある

プロポーズする際ミスリルのブレスレットを送るのだと


「サラサを愛してる…この先ずっと俺と共にいてくれるか?」

かすかに不安を漂わせた目がまっすぐ私を見ていた

滅多に見る事の無い真剣な表情がそこにある


私はナターシャさんから聞いた同意の合図を頭の中で描く

いまだに自分から口づけたことはないため心臓が早鐘のように打つのが分かる

それでも私の中にノーという返事はない


贈られたブレスレットにそっと口づける

そして少し背伸びしてレイに口づけた


触れたのは一瞬だった

それでも自分の顔に熱が集まるのが分かる

次の瞬間レイに抱きしめられていた


「レイ?」

「…幸せになろうな」

耳元でささやかれた言葉に小さく頷いて返す

『幸せにする』ではなく『幸せになろう』と、共に歩むことを望んだ言葉が嬉しい


「ありがとう」

「何が?」

「レイと出会ってからの全て…」

転生した特別な日に特別な想い出が重なっていく

楽しかったことも悲しかったことも全て大切な思い出だ


「…鼓動が速いまま」

レイが少し笑って言った


「だって…自分からなんて初めてだったから…」

そう、口づけは初めてだ

レイが死にかけた時にポーションを口移しで飲ませたことはあったけどそれはカウント外だろう

恥ずかしさのあまりレイの胸に顔を埋めるとレイが息をのむのが分かった


「?」

思わず顔を上げるとそのまま口づけられる

いつもの甘い優しいものからさらに激しく貪るような口づけに変わる

少しずつ深く入りこんでくる舌が貪欲にかき乱す


「……ふぁ…ん…」

思考が簡単に奪われていく

何も考えられずただしがみつき必死に応え続けた

初めて与えられた感覚から、膝から崩れそうになって初めて解放された

レイに抱きしめられていなかったら立っていることは出来なかったかもしれない

それなのに離れていく熱に寂しいと感じた自分に驚く

もっと…

思わずそう口走りそうだった

それに気づいた瞬間パニックに陥りそうになりながら、必死で心を落ち着けていた


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