11-6
「お待ちかねの罰ゲームだ」
「今日は勘弁しろよぉ…」
心底イヤそうにカルムさんを見る
かなり酔いが回ってきてるのか少し甘えているようにも見える
「情けない声出すんじゃねぇよ。簡単なことだ。さっき俺に言ってたことをサラサに言え」
「何…言って…」
少し動揺しているようだ
「お前が自分で言わないなら代わりに俺が言う。俺はどっちでもいいぞー?」
カルムさんは煽るようにニヤリと笑って見せる
「…わかったよ…」
逃れられないと悟ったのかレイは机に突っ伏してしまった
「ナターシャ俺らも休むか」
「そうね。サラサちゃん、レイおやすみー」
「おやすみなさーい」
2人が部屋に戻ったのを確認してから私はレイの側でしゃがむ
「大丈夫?」
「…無理」
胸元にもたれかかってきたレイを支えきれずに座り込む
「ブランデーなんて勝ち目ねーのにカルムの奴…」
甘えたように抱き付いてくるレイにどう接していいかわからない
「負けるとわかってても勝負は受けるんだね?」
「そうじゃない」
「?」
「受けない=負け」
「それは…」
まじか…
それをしかけたカルムさんは本当に容赦がない
「不戦敗でそのまま罰ゲーム」
いたたまれない
カルムさんが悪意を持ってそんな勝負を仕掛けるとは思えないから何か理由があるのだろうけど…
「…とりあえず部屋行こ?」
その言葉にレイは立ち上がったもののかなりふらついている
横から支えながらなんとか部屋に戻るとベッドに倒れこむ
「レイお水」
レイの方に差し出すと少しだけ頭を上げて一気に飲み干した
少しするとレイの呼吸が落ち着いたようだった
カルムさんが言っていたことが気になるものの問うことができないまま長い沈黙が続いた
「なぁサラサ」
沈黙に耐え切れなくなって一旦立ち上がったタイミングで声をかけられた
再びレイのそばに腰かけるとレイが膝の上に頭を乗せて横になるとそのまま私の腰に抱き着くように手を回す
こんなレイを見るのは初めてだ
「…もっと頼れよ」
「え…?」
予想外の言葉が飛んできた
言われずともすでに私は色んな意味でレイに頼り切っている
「もっと甘えろ」
ぽつりぽつりとレイは言う
でも私は充分甘えてると思う
むしろ甘えすぎ?
「お前のわがままならなんでも叶えてやるから…」
「レイ…?」
「お前のためなら何でもしてやりたいのに…お前は何も言わない」
「そんなこと…」
ない、という前にことばを遮られた
「前は…前の世界では…甘えることもあったんだろ?なのにお前が俺に望むのは一緒にいること…そんな当たり前のことだけだ…」
その言葉に違和感を持ったときの会話を思い出した
少しずつ何かがつながっていく
「当たり前の事じゃないよ…」
レイがまっすぐこっちを見上げるように体の向きを変えた
「私にとって、大切な人と一緒に過ごせることは特別な事だよ?」
「んなわけないだろ…」
「私は…前の世界で長い時間を誰にも心を開かずに1人で過ごしてた」
「…?」
「物心つく前から暴力しか与えてくれなかった母親に捨てられて、施設でも、引き取られた家でも虐待されて、誰も信用できないまま大きくなったの」
どう話せば一緒にいることが当たり前じゃないのだとわかってもらえるのか
普通であることがどれだけ私にとって得難いものだったと伝わるのかわからない
それでも今ちゃんと伝えなきゃいけないことだけはわかった
「大人になってからは生きるために仕事した…日々の生活に追われて自分の時間なんてほとんどなかった…それでもいろんな仕事に携われたし、最低限の生活だったけど自立してるだけで満足だと思ってた」
「…」
レイは黙って聞いていた
「でもこの世界でレイと出会って…レイと一緒にご飯食べたり出かけたり家でくつろいだり…こんな暖かくてゆったりした、充実した時間の過ごし方を初めて知ったの…それを手放したくないって思った」
「サラサ…」
「今の私はレイに頼り切って、迷惑ばっかりかけてるのにレイはいつも甘やかしてくれる…1人じゃないんだって思わせてくれる…それが何よりうれしい」
レイが起き上がり私を抱きしめる
「私…これからもレイと一緒に色んなことがしたい。どんな小さなことでもレイと一緒がいい…レイと一緒にいられるなら他には何もいらない」
思いを告げながらレイの首に腕をからませる
「わかった。これから先ずっと…その望みを叶えてやる」
熱を孕んだ甘いささやきと共に口づけられる
それはレイとの甘い時間が始まる合図だ
私はレイに教え込まれた快楽の波にのまれていった
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