11-7

◇ ◇ ◇



「ちゃんとおさまったみたいだな?」

レイが明け方のどが渇いてキッチンに行くとカルムがソファで水を飲んでいた


「おかげさまで…」

水を汲んでカルムの向かい側の床に座り込む


「ナターシャは?」

「愚問だな」

「…抱きつぶしたってことか…」

ニヤリと笑うカルムにレイはため息交じりにそう言った


「で、一緒にいても頼りにもされない、甘えてもくれない…その不満は解消できたのか?」

「ああ…」

頷いて水を一気に飲み干した


「はたから見てりゃお前らはお互い甘え合ってるようにしか見えないぞ?」

「…」

「まぁサラサは最初から不思議な存在ではあるけどな。それでもお前がいるときは目の色が少し変わる」

「え…?」

「お前がいない時は少し冷めた目をしてる。まぁこれはナターシャが言ってたことだけどな。でもそれだけ心を許してるってことだとは思うぞ」

カルムの言葉にレイはしばらく何かを考え込んでいた


「…あいつがいつも望む一緒にいるってことが俺にとっては当たり前のことでさ…それしか望まないのがもどかしくて仕方なかったんだ」

「一緒にいるか…確かに俺にとっても当たり前のことだな。あえて望むようなことじゃない。そもそも一緒にいたくなければ付き合うこともない」

カルムは笑いながら言う


「でも…あいつにとってはそれが特別なことだった。その特別なことをずっと望んでくれてたってわかった」

「そうか…サラサは色々抱えてるんだろうとは思ってたけど…そんな些細なことが特別か…」

「…」

しばらく沈黙が続いた


「…一番望んでることはお前と一緒に過ごすこと、今一番欲しいものはお前の笑顔」

「え…?」

「昼間に俺が聞いたとき、サラサはためらいもせず俺の目をまっすぐ見てそう答えた」

「…」

「俺相手にそう言ったんだから本心だろ。今でもお前に甘やかされてると思ってるくらいだ。甘えるってことがどういうことなのかすらわかってないのかもしれないな…大事にしてやれ」

カルムは部屋に戻っていく


「…ああ」

レイは遠ざかる背中に向かってそう答えた



◇ ◇ ◇



みんなが起き出す前に朝食の準備を終えて時間を持て余した私は編み物をしていた


「っ!」

突然背後から抱き付いたレイが首筋にキスをした


「レイ…!」

不意打ちすぎる行為に顔が熱くなる

ブランデー勝負の夜以来、レイのスキンシップが明らかに増えた

人前でも行われるそれは恥ずかしい反面嬉しさもあり怒るに怒れないまま継続中だ


アランさんとメリッサさんもそんな感じなのでこの世界ではそれが普通なのかもしれない

思い返してみればカルムさんとナターシャさんも、事あるごとに触れ合っていたし時々キスしてるのも見かける

気にする方が間違っているのだろうかと少し凹んでしまう


「何作ってんだ?」

「…秘密」

ささやかな反抗を試みる


「へぇ…」

失敗したと思った時にはレイの腕の中だった

この体勢は危険だ

こうなったら答えるまで甘い悪戯から逃してもらえない

しかもいつだれが起きて来るかわからないというオプション付きだ


「…レイにあげるもの作ってるの」

負けるのが分かっている為レイがそれ以上行動に移す前に降参した

「なんだ、もう言うんだ?」

つまらなそうに言うレイをジトーっと見ると苦笑しながら解放される


「で、何?」

「マフラー」

「まふらー?」

そういう名の防寒具はないのだろうか


***

マフラー

首用の防寒具

ミュラーリアには似たものも含め存在しない

***


なるほど

一人納得しどう伝えたものかと思案する


「んーレイって寒いの苦手でしょ?」

「ああ」

「マフラーは首を寒さから守ってくれるものなんだけど…」

私は手元を見る

出来上がるのはもうすぐだ


「使ってみたほうが分かりやすいから仕上げちゃうね。あと10分くらい待って」

そう言って再び編み出す

レイは興味深そうに手元を覗き込んでいた


「本当器用だよな。どんだけ見てても飽きない」

縄目ができていくのが面白いらしく結局完成するまでレイは見続けていた


「こんな感じ」

最後の処理を終えるとレイの首に巻く


「何だこれ?滅茶苦茶暖たけぇ」

どうやら気に入ってくれたようだ

その後レイがカルムさんたちに自慢して、私はナターシャさんとメリッサさんに数日かけて編み物を教えることになった


当然のように編み物もこの世界にはなかったようで、後日商業ギルドに登録されていることを知ることになる

しかもその登録に動いたのはメリッサさんだった

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