5-2

 ◇ ◇ ◇



「…?」

サラサはいつの間にかレイの肩にもたれかかっていた


「…寝てるわね。アランも既に爆睡してるけど」

ナターシャが笑いながら言う


レイは苦笑しながら少し体制を変えるとサラサの頭を膝に乗せた

俗にいう膝枕である


「それにしてもレイがな…」

カルムがしみじみという


「つきあってるってわけじゃ…ないのよね?」

「ああ」

「でもはたから見てりゃ付き合ってるみたいだけど?」

「…詳しいことは言えないけど…こいつにはそんな余裕ないよ」

レイはそう言いながらサラサの髪をすく


「ただ…ほっとけないし守ってやりたいとは思ってるな」

「それだけじゃないよな?」

トータはそう尋ねたがニュアンス的には肯定的だった


「…そばにいてほしいと思ってるよ。でもそれは俺のエゴだしそんなこと望む資格はないな」

「そばにいてほしいと望む資格…か…」

カルムがつぶやくように言って大きなため息を吐く


「どういうこと?」

「いや」

ナターシャの問いを流してエールをあおる


「そろそろお開きにするか。トータ」

「?」

「アラン運べ。ナターシャは先に寝ててくれ」

「あんたは?」

「ちょっとレイと話がある」

「…了解」

「わかった」

トータとナターシャはいつも使っている客間の1つにアランを運び自分たちも別の客間に入っていった


「…話って?」

暫く続いた沈黙を破るようにレイは尋ねた


「お前はどこを目指してるのかと思ってさ」

「?」

言葉の意図が理解できずただまっすぐカルムを見返す


「そばにいてほしいと望む資格って何だ?」

「…」

その問いに黙り込む


「10歳の頃からだからもう10年か…自分の力だけで生きてきたお前にそれ以前の事なんて関係ないと思うけどな?」

カルムは静かに言う


「…3か月だっけ?保護して」

「ああ」

「その間一緒にいる時点でお前にとって特別なのは間違いないだろ。それにサラサと話してるお前は今まで見たことないくらい楽しそうだ」

「…俺が?」

自分が楽しそうだと言われて何かを考え込んでいる


「サラサと出会う前のお前が相手にしてたのはよその拠点の冒険者の女か商売女。しかも1回するだけで事が終わったらさようならだっけ?」

「…」

「そんなお前が一緒に住んでんのに手も出さないってそうとうだろ?かといってよそで遊んでるわけでもないみたいだしな」

カルムはマジックバッグから新たに取り出したお酒をそのまま煽る


「俺らですら同じ家に入れても同じフロアには泊めないお前が最初から隣の部屋に置いてるんだ。俺はそれが全てだと思うぞ?そんな風に接する相手はそう簡単に出会えるもんじゃない」

「…それでも俺は自分の気持ちよりサラサの気持ちを大事にしてやりたい。それ以上に#あのこと__・__#でサラサに少しでも危険が及ぶ可能性がある限り、俺の特別な存在にするわけにもいかない」

そう言ったレイの顔は少し悲しみを帯びていた


「#彼の人__あいつ__#は10年前に死んだ。それが俺達国民の知っている事実だろ。たとえ何かがあったとしても、それを跳ね返すだけの実力がお前にはある。もしそれで足りなかったとしても俺らは必ずお前の力になる」

「カルム…」

「俺はレイにも自分の人生を楽しんでほしいと思ってる。それだけは忘れるな」

カルムはそう言い残して客間に入っていった


「…俺の人生…か…」

レイはつぶやきながらサラサを見る

安心しきった表情で眠っているのがわかる


「俺が本当の事を話せばお前も話してくれんのか?」

その言葉は誰の耳にも届くことはなかった

自分の隠していることと同様にサラサの隠していることも簡単に口にできるものではないのだろう

レイはそれが分かっているだけに求める気持ちを認められずにごまかすことを選んでいた

でもそのことに自分は気づいていなかった



◇ ◇ ◇


弾丸と過ごす時間はあっという間に過ぎていく

基本的には皆自由に過ごしているものの、夕食時は何故かそろっている


「何か休息終わってもここにいたいくらいね」

ナターシャさんがしみじみと言う


「お前それ飯のために言ってねぇ?」

「バレた?だってこんなおいしいご飯自分では作れないし」

「確かにこの飯は捨てがたいな…」

「なぁサラサ、いっそ町で食堂とか…」

そんなことを言い出したのはトータさんだ


「それいいかも。私絶対通うわ」

「あはは…それは流石にきついですよ。この人数の料理作るだけでも結構大変なのに」

私は次から次へと入ってくる冒険者を想像してぞっとする


「でもおいしいって言ってもらえるのは嬉しいから、今度からここで飲む時はおつまみ作りますね」

「マジ?」

トータさんが身を乗り出す


「はい。食材には困ってないし、いつ来ても大丈夫なようにストックもしときますね」

「そうか。レイのインベントリがあればそれも可能か」

カルムさんが妙に納得している

私のインベントリの事はまだ誰にも言っていない


「サンドイッチやおにぎりなら依頼の時でも食べれるでしょう?」

「ああ。あれは片手で食えるから助かるんだ」

それは戦いながら食べるということだろうか?

ありがたがられるポイントに少し首をかしげる


「こいつら移動しながら食うことが多いんだよ」

「あ、なるほど」

察したレイが教えてくれた


「考えてみたらランク低かったころに歩きながらの食事ってなかったわよね?」

「そりゃ無理だろ」

「どうしてですか?」

当たり前のように無理だというアランさんに尋ねる


「俺らは今でこそマジックバッグがあるから荷物は持たずに済んでるけどさ、それを手に入れるまではすべての荷物を背負うなりして持ってたからな」

すべての荷物がどれくらいの量になるのかはわからないけど、ギルドで見かける低ランクの冒険者は確かにかなり大きな荷物を背負っていた


「量があるだけに重さもかなりあるから休憩する時に飯を食う」

「むしろ飯を食うために休憩する。その時は荷物もおろすしな」

「なるほど…」

「結構きついから最初にマジックバッグ入手した時うれし泣きしたよな」

トータさんが言う


「そういやお前泣いてたな?」

「マジックバッグって迷宮品でしょう?パーティーで見つけたら取り合いになったりとか?」

「それは無いと思うぞ。大抵全員の荷物を入れることができるからリーダーが持ってることが多いんじゃないか?」

カルムさんが言う


「まぁうちは頻繁に食いもん欲しがるトータに持たせてたけどな」

「あれ?俺が持ってたのってそういう理由だったのか?」

当のトータさんが一番驚いていた


「最初は俺が持ってただろうが?だんだんうっとおしくなってお前に持たせたんだよ」

「うっとおしいって…」

思わず苦笑する


「けどトータが持つようになったらなったで、食いもん入れたままになったりして色んなものに匂いが移ったんだよな」

「え…」

「最悪だぞ?腐った匂いとか」

アランさんが心底イヤそうに言う


「だから2個目をGETした時は1個をトータ専用にした」

「てかさーマジックバッグにも時間経過止める機能あれば問題ないんじゃねぇの?」

トータさんの言葉にみんなが顔を見合わせる


「…その機能が欲しいのは同意するがお前の理由とは違う気がするのは俺だけか?」

カルムさんの言葉にアランさんとナターシャさんが自分たちもだと答えているのに笑ってしまう

この遠慮ないやり取りがレイにとって心地いいらしい


「あら、サラサちゃんそのドリンクは?」

「これはフルーツとハーブ…薬草を使ったお酒です」

「薬草?!」

ナターシャさんの驚く声にカルムさんたちまで驚いている


「オレンジとバジルを使ってるんです。飲んでみます?」

私はも作ってきたカクテルをナターシャさんに渡す

ナターシャさんは恐る恐ると言った感じで一口飲んでいる


「…おいしい」

その言葉に次々と回し飲みされていく


「バジルってあのFランクの薬草だろ?」

「そうですよ?売るのもったいなくてストックしてあるんです。タイムとパイナップルで作ってもおいしいですよ」

「サラサそれ人数分」

レイがすかさず言ったため私は2種類を人数分用意した


「…まさか薬草と酒を混ぜるとか…」

「そうね。しかもそれがこんなにおいしいなんて…」

皆口々に言いながら飲んでいる

ラム酒ベースで炭酸で割っている為あっさり目ではあるはずだ

むしろ物足りないのでは?とも思ったものの、この世界のエールはフルーティーなものなのでフルーツが入っているだけで抵抗が薄れるのかもしれない

他にもスペアミントやレモングラス、ローズマリーを使うものもある

でも採取ランクがEランクとDランクなのでここで披露するのはやめておいた

モヒートも好きなんだけど…と思いながらみんなのやり取りを眺めていた


この世界では薬草と呼ばれるものはクスリとしてしか使われていないらしい

ハーブティーやハーブを使った雑貨を作ってみいたと言ったらどんな反応をされるのだろうか?

まぁレイは食事に使っていても気づいてないようだけど…


「どうかしたか?」

「ううん。何でもない」

顔を覗き込むレイに笑って返した

何にしても今のところは大っぴらにハーブを使うのはよした方がいいようだと一人結論付けた


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