第6話 Lightning Hornet(2)
「まさか…アンタがスズメバチ、か!?」
スズメバチの名を呼ぶとイスルカは少し嫌そうな顔をした。
「やめろ!あの部隊章はスズメバチじゃなくてミツバチだ!ビーハイブ戦闘旅団なんて名前が付いていた時点で察しが付くであろう!」
何故か顔を赤くしながら必死に否定するイスルカの姿を怪訝な表情で見る。
記憶が正しければ彼らの部隊章に描かれていたのは間違い無くスズメバチだった筈だ。
ビーハイブ戦闘旅団という名は他のDNLF部隊が彼らの栄光にあやかったパクリだと思っていた。
「いや、ありゃあどう見てもスズメバチだぞ。ミツバチは無理がある」
「………アレのデザインを提案したのは私だったんだ……私のデザイン案のミツバチの絵が下手過ぎて部下にスズメバチと間違われたんだ!!」
大声で捲し立てるイスルカ。
可愛げがあるのは良い事だが周りの目も考えてほしい物だとケントはそう思いながら周りに視線を巡らす。
「あーあ、また閣下が癇癪起こしてる」
「魔人族って血圧上がっても大丈夫なんかね?」
「よせよ、聞こえるぞ。あの新入りも気の毒だな」
周りでは他のホーネット戦団の亜人兵達が各々の作業をしつつこちらを時々見ては何か話していた。
そこで、ケントはあるおかしな事に気が付いてイスルカにそれを問うた。
「なあ、今更だと思うが…何故俺は現地の言葉が理解できてしかも喋られるんだ?」
「ん、なんだそれしきの事、お前の脳を術式でチャチャっとな」
「待て、何を………俺の脳に何をした!?」
不安混じりの声で問い正そうとするケントを伴ってイスルカは散歩でも行くのかという足取りで外を歩き続ける。
ケントが漸く黙った頃には、二人は既に戦団の基地の敷地を抜け外の広大な平原にポツンと立っていた。
青空の下、草花がそよ風で揺らめく平原。
地平線の向こうには僅かに丘陵地帯が見える。
「この地は嘗てお前がいたマリコルニ神導国よりはるか遠く東に離れた、カシーディ王国という小国があった場所だ景色は西側とそう変わらんであろう」
確かに景色はマリコルニで見た物とあまり変わらない。
20年前はまだツェルドの調査もあまり進んでいなかった為、このような国がある事などアメリカもその他の西側諸国も誰も知らなかった。
その調査計画すらもマリコルニ亜人蜂起で頓挫してしまったので尚更ケントが知っている筈が無い。
「何故、俺が昔マリコルニにいた事を知ってる?」
「当たり前だ、私は14世紀で最も完璧な魔人族でありあの誰も勝てぬと言われたアメリカとヨーロッパ諸国の多国籍軍を打ち破った張本人であるぞ」
「まるで説明になってねえぞ………しかも14世紀最も完璧な魔人族って、チェ・ゲバラの受け売りか?」
「いちいち面倒な奴だな………我が魔術にかかれば他者の記憶の一部を瞬時に読み取ることくらい容易い」
このような感じで最初はどうでもいいような雑談を行った後、話題を切り出したのはイスルカの方だった。
彼女が言うには助けて貰った恩を返す為に働け、だそうだ。
半ば命令のように言い放たれたその恩返しの内容とは、このホーネット戦団の中にある現在指揮官不在の部隊の指揮官となる事だった。
ホーネット戦団の規模についてだが、一年前は動ける兵士が300人程いたそうだ。
それが3か月後には120。
半年後には80人。
そして今ではイスルカを除いてたったの20人という様だ。
部隊は二つあり、その内一つはディカスが率いているレイジング・ワスプ隊。
15人の兵士と三両の装甲車を有している。
二つ目が問題の
どうやら少数精鋭の偵察隊も兼ねた特殊工作部隊として編制された部隊のようだが如何せん装備が貧弱すぎる。
装甲車どころか与えられた唯一の移動手段はなんと
これらしかまともな移動手段が無いそうだが当然文明の利器に頼ってきたケントに馬の乗り方など分かる筈も無い。
オマケに個人の装備も第二次世界大戦時代並。
五人の所持火器を並べてみればPPS-43だの、SMLEだの、RP-46だの、M1カービンだの、SKSだの。
終いにケントに与えられたのはMAS-49。
イスルカは余っていた兵器の中でも一番状態が良かった物だと言っていたがそういう問題ではない、とは誰もが言いたくなるような惨状だった。
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