白霊姫は呪われる 〜こんな私でも誰かに愛してもらえるのでしょうか?〜
桃麦
第1話白霊姫は嫌われる
「来たわよ、白霊姫(はくれいひめ)。」
クスクスクスと聞こえる悪意まみれの言葉。最初に聞いた時は何のことか分からなかった。アースお兄様は優しいから、私に意味など教えずに気にすることはないと言って来れたが、もう16歳にまでなれば流石にわかる。
白霊姫
それは、私のことを指していると。
「オリビア、あんな言葉は聞いちゃダメだ。行くぞ。」
「アースお兄様、待ってくださいよ!」
スタスタと歩くお兄様の後を追う。
私の名前はオリビア・ユーリ。回復魔法を得意とするユーリ家の長女だ。多分、みんな一度見たら私のことを忘れないだろう。決して外れることのない、顔も見えないヴェール、ヴェールの奥から見える底なしの真っ黒の瞳。そして、幽霊のように白い肌。極め付けはこの髪である。老婆のような真っ白の髪だ。
こんな私を貰ってくれる人なんているの?はぁ…。
そう、何を隠そう今日は婚約者を探しにこのパーティーに出席しているのだ!10歳にもなれば婚約者ができ始めるこの貴族社会の中で私は16歳になって今なお婚約者どころか恋人も、そして知り合いの男の人もいない。
「なんてことなの…」
「どうかしたか?」
「あ、えぇっと、その…こんな私を貰ってくれる方などいるのかと少し不安になっただけです。」
「大丈夫だ!オリビアの良さをわかってくれる人が絶対にいるはずだ!最悪、このまんま家にいればいい。」
そう言ってもう6年目よ、お兄様。はぁ…。
いつまでも家のお世話になっているわけにはいかない。家にずっといる!という、わがままが通るのは子供の時だけだ。
「私、少し人混みに酔っちゃいました。向こうのほうで少し休んでますね。」
「なら、お兄ちゃんも一緒に行くぞ!」
「いいえ!大丈夫です!」
私が離れた瞬間お兄様の周りには沢山の人が集まった。多分みんな私を警戒してお兄様に近寄れなかったんだろう。
どこ行こっかなぁ…。
行く当てもなくパーティー会場を回っていると綺麗な庭園を見つけた。
「素敵…」
奥まで進むとフワッといい匂いがした。なんとなく釣られるように近づくと誰かが佇んでいた。
大変だわ!会場を抜け出してしまったのがバレてしまうわ!
逃げようとした瞬間運悪く足元の枝をぽきりと追ってしまった。
「誰だっ‼︎」
「ひっ!あ、怪しいものではないんです!」
そう言っときながら自分で突っ込む。
いや、怪しすぎるわよ!
と。白髪というのを隠すためとはいえ、茂みに隠れながら自分は怪しくないと言い張るのはいくら警戒心がないと言われる自分でも怪しいのがわかる。
「怪しいものではない…か。ならそこから出てきたらどうだ?」
「いえ、その…諸事情がありまして…。そういうあなたはこの家の方ですか?」
「ま、まぁ、そうだな。」
「ごめんなさい、勝手にパーティー抜け出して勝手にお庭に入ってしまって。」
すると彼はこちらに近づきながら言う。
「そんなことはどうでもいい。それより諦めて顔を出したらどうだ?」
うぅ〜…。
ひょこっと目まで顔を出す。
パチッ
ザッともう一回茂みの中に隠れる。
か、完璧に目があってしまった〜!布越しだと言え、他人と目が合うのは久しぶりすぎてすこし緊張した。それよりも…すっごい、イケメンだったわ!え?この屋敷ってそんなイケメン住んでたのかしら?ってくらいイケメンだったわ!あわよくばこの人と仲良くなって婚約を…と淡い期待を寄せながら顔を出した私がバカでした!
「おい、お前、もしかして…オリビア・ユーリか?」
「は、はい、そうです…」
この目立つ白髪とヴェールを見ればそりゃわかるわよね…。庭園綺麗だったけど追い出されるかしら?
「あの、申し訳ございません。すぐに立ち退きますわ。失礼いたしま…」
「待て」
ひっ…。
地の底から這い出たような声に私の背筋は凍る。もしかして、そんなに私のこと嫌いでしたの?
眉間に皺を寄せてイケメンは一言呟く。
「お、俺と、友達になって来れないか?」
「…はい?」
たっぷり5秒考え出した答えは「…はい?」だ。いや、待て、本当に意味がわからない。
なんでこんなイケメンな人が私と友達になってくれなどと…。あぁ!そっか、多分これは…
「言っとくけど物珍しさで言ったわけでもからかったわけでもないから」
「ふぇっ⁉︎」
え、もう、頭がショート…。
「ただ、単純に友達になりたいんだ」
あぁ、もうだめ…天国のお母様、そしてお父様とお兄様、今日は私の命日でしょうか?こんなイケメンから友達になってくれなんて…。
「トモダチ、カラ…オネガイ…シマス」
そして、そのまま私は意識を失った。
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