第100話 失敗を繰り返し、人は成長する

 4階の突き当たりの空き教室か……。

 オレは、念のため周囲を見渡してからドアに手を伸ばし、開ける。


「お待ちしておりました一樹君」


 教室へ入ると千佳は、父親と先に電話していた。


「どうぞ後は、お二人でお話しください。私は、ここで見張っておきますから」


 そう言って千佳は、自分のスマホをオレに手渡し、教室の扉の前へ移動した。

 さて、千佳の父親は、何を話したいんだろうか。電話はすでに繋がっているので名前を名乗った。


「大山一樹です」


『あぁ、大山君……久しぶりだね。元気にしているたかな?』


「お久しぶりです雨野さん。雨野さんが相談に

のってくれたおかげで自由に過ごせてます」


『そうか、それならよかったよ。君が楽しい高校生活を送れているなら相談にのった甲斐があった』


「楽しい……それは、ちょっと違いますね」


『ん? それは、どういうことかな?』


「確かに憧れの学校に通い、経験したことが出来ていいですが、オレは、あの人が作ったこの学校で楽しいなんて一度も思ったことはありませんよ」


 オレがそう言うと雨野さんは、少し黙りこみ小さく笑った。


『君は、変わらないね。父を嫌っているところは、特に……』


「……あの、雑談はいいんで本題に入りませんか?」


『あぁ、そう言えば、君は、自分に関しての話は苦手だったね。じゃあ、ご希望にお答えして本題へいこう』


「ありがとうございます」


『君には、伝えるべきことがあるんだ』


「何ですか?」


『4月……「フォースプロミス」の関係者が君のところへ訪ねにくる』


「予言みたいなやつですか? それとも本当のことですか?」


『本当の話だよ。この前、突然、神楽さんが私の元へ訪れたときに教えて貰ったんだ』


「神楽さんが……信じられませんね。ですが、嘘をつく理由が見当たらないので信じます」


『話したいことは、終わり……この先、困ったことがあればいつでも私や私の娘を頼ってほしい』


「ありがとうございます。では、困った場合は遠慮なく頼らせてもらいます」


『じゃあ、電話を切るよ』


「情報提供ありがとうございます」


 オレは、そう言って電話を切った。


「貸してくれてありがとな」


 そう言ってスマホを千佳に返す。


「いえ、いい情報が貰えたようですし、よかったです。では、私はこれで……」


 千佳は、そう言って空き教室から出ていった。

 さて、オレも帰るか。


────────────


 翌日の放課後、ある人物から連絡を来たのを確認した。


「近藤、少し図書館によらないか?」


 帰る用意をしていた近藤をオレは、誘った。


「なぜ?」


「勉強を教えて貰おうと思って……」


「へぇ~いつもは、勉強が嫌だと言って逃げ出すくせに」


「今日は、やりたい気分だからな」


 オレがそう言うと近藤は、疑わしいような目でこちらを見てきた。


「まぁ、いいわ。付き合ってあげる……」


 一緒に行って貰えることになり、オレと近藤は、教室を出た。


「なにかしらあのひとだかり……」


 近藤は、廊下を出てすぐに違和感を感じた。2組の教室前には何人かの生徒が集まっていた。


「ちょっと近づいてみるか」


 オレは、そう言って近藤と2組へ向かった。


「ん? 濱野?」 


 教室を覗くと一人の少女が注目を浴びていた。


「ごめんなさい!」


 濱野は、教壇の前に立ち、目の前にいるクラスメイトに謝る。教室には、放課後のためクラスメイト以外の生徒も何人かいた。


「謝ってすむ話じゃないの。濱野さんのせいで美琴ちゃんは、ひどい目にあったのよ?」


 クラスメイトの女子は濱野に向かって言う。


「……ごめんなさい、美琴ちゃん」


 濱野は、美琴と呼ばれる三つ編みの髪の少女

に謝る。


「一華ちゃんひどいよ……。約束したのに……

困ったら助けてくれるって言ってたのに……。嘘つき」


 美琴は、そう言って濱野を睨む。


「っ!!」


 濱野は、いつもの明るさがすっと無くなった。


「そう言えばさ、小野寺さんから聞いたよ。濱野さん、こういうこと昔もやったんだって? 助けを求めたのに濱野さんは、無視した……最低ね」


 美琴のとなりにいるクラスメイトがそう言うと濱野の顔色はさらに悪くなる。


 これ、ヤバくないか?

 いくら善人の濱野でもこんなにもクラスメイトからマイナスな言葉を吐かれると耐えられなくなるはずだ。


「大山君、彼女のこと助けた方がいいと思うのだけど……」


 隣でオレと同じことを考ええいた近藤は、言う。


「いや、まだ早い気がする」


「どういうこと? 早く助けないと彼女、精神的ヤバいわよ?」


「そんなことわかってる……。ここは、オレ達が助けたらダメなんだ」


 そう……この場に必要な人は、オレ達じゃない。オレは、再び教室にいる濱野に目を向けた。


「無視したつもりはないよ。用事があって……」


「なにそれ言い訳? 美琴が濱野さんに助けを求めてたのにあなたは、無視した。何か間違ってる?」


「ごめんなさい……けど、本当に無視は、してない……」


「はぁ~はやく本当のこと言ったら? 無視しましたって……まぁ、今ここで本当のこと言ったら濱野さんは、クラス全員から嫌われるだろうけど」


 キレた美琴の隣にいるクラスメイトがそう言うと教室に1人の男子生徒が入ってきた。


「おい、何やってんだよ。女子数人で1人の生徒をいじめる気か?」


「ひ、平坂君………」


 濱野は、教室から帰ってきた平坂に驚いた。


「平坂君、いじめてるわけじゃないよ。私達は、ただ美琴ちゃんが……」


「話なら後で聞く。濱野、一旦、教室出るぞ」


 平坂は、濱野の手を取り教室を出ていく。


「よし……近藤、ついていくぞ」


 濱野と平坂が教室を出ていくのを見たオレは、近藤に声をかける。


「えっ……?」


 近藤は、なんで?と言いたげな顔をしたがオレと一緒に平坂と濱野を追いかけた。



────────────


「お茶でよかったか?」


 自販機前に座る濱野に平坂は、お茶の入ったペットボトルを渡す。


「ありがと……」


「濱野、大丈夫か?」


 二人に追い付いたオレは、濱野に話しかける。


「大山君……もしかしてさっかの見てたの?」


「あぁ、人が集まっていたからな」


「そっか……近藤さんも?」


 濱野は、オレの隣にいる近藤に目を向ける。


「えぇ……。あなた何があったの? クラスメイト、怒っていたみたいだけど……」


「ごめん。言えない……」


 濱野がそう言って立ち上がろうとした時、足音がした。


「そうやってまた一人で抱え込むんですか?」


 そう言ったのは、武内と笠音を連れた千佳だっ

た。


「雨野さん……」


「先ほどの会話……普通の人なら一華さんが何か美琴さんに酷いことをしたように聞こえますが、私はあなたがそんなことをするような人には見えません。大山君、近藤さん……あなた達もそう思いませんか?」


 オレと近藤があの場にいたことを知っていた千佳は、オレ達に聞いてきた。


「私も雨野さんと同意見よ。濱野さん……何が

あったのか話してくれない?」


「……わかった。話すよ」


 濱野は、話す覚悟が決まり顔をあげた。


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