第76話 助けたいと言いつつ脅していく作戦
3学期始業式の1日前の冬休み最終日。
「小野寺雪と濱野一華を助ける?」
カラオケルームという密室の中、笠音は、驚きのあまり大きな声を出してしまう。
「まじかよ、リーダー。敵を助けるとかオレらにとってデメリットしかなくね?」
松原がそう言うと雨野は、笑う。
「一度話を整理しますね。私は、明日、学年チャットで『小野寺雪さんは濱野一華さんに嫌がらせをしていた』ということを暴露します。さすがに私が発言したということは、伏せたいので無名で……質問はありますか?」
雨野は、そう言って2人に尋ねる。
「暴露する理由は?」
笠音は、すぐに質問した。
「小野寺雪さんを退学させるためです。ですが、そう簡単には退学なんて出来ませんよね? 先生達で退学させるべきだと結論がでてもおそらく理事長は、はいそうですねと退学を認めないでしょう」
「なんで千佳は、理事長だけは認めないって思うの?」
「理事長は、誰よりも優秀な生徒を求めていますから。小野寺さんのような優秀な生徒を失うわけにはいかないのです」
「なるほどな。理事長の知り合いである千佳だから言えるものってやつか」
「えぇ、退学させることはおそらく無理なので、脅すようなことをしたいと思います」
「ちょっと待って。まず、千佳は、なんで小野寺雪を退学させたいの? 小野寺さんと千佳は全く関わりないでしょ?」
「えぇ、そうですね。小野寺さんとは、全く関わりがありません。ですが、私にとって小野寺雪さんは、今後邪魔な存在ですから」
実際は、大山一樹のため。だが、雨野は、そう言うわけにもいかず納得のいく嘘の理由を笠音に言った。
「ふ~ん。で、脅すようなことをするって具体的には?」
「今後、濱野一華さんに嫌がらせをしないことを約束してもらうんです。ですがただもうしませんと小野寺さんが言うだけでは意味がありません。なので、必ず約束を守ってくれるような状況を作り出すんです。簡単に言うと約束を破れない状況にするということです」
「代々わかったよ。けど同じく退学させたい濱野を助ける理由はなんだ?」
「濱野一華さんは、まだ退学させてはいけないと思いまして。一華さんを小野寺雪さんから退学させられそうな状況から救う。小野寺さんを学年チャットで噂されて学校にいずらい状況から救う。これが私の作戦です」
一通り話し終え雨野は、目の前にある飲み物を手に取る。
「少し手荒な作戦だが悪くない。簡単に言えば濱野を助ける作戦だな」
「えぇ、そうです。一華さんを救うため私たちが救世主となりましょう」
雨野は、そう言ってくすっと笑った。それを見た笠音は、一人大きなため息をつくのだった。
─────────
「なんで私を助けるの?」
小野寺は、雨野からの言葉に対して首をかしげた。
「だって可哀想じゃないですか。嘘の噂を学年チャットで流されて……この噂が学校中に広まればあなたの居場所は、チーム以外確実になくなります。なので、そんなことになる前に私が小野寺雪さんを救ってあげます」
雨野がそう言っている中、松原と笠音は、嘘くさいなと思いながら聞いていた。雨野は、濱野を救うだけで小野寺雪など救う気は一切ない。小野寺を救うというのは、ただの材料にすぎない。
「助けるって、一体何をするの?」
「簡単ですよ。誤解を解くんです。私の知り合いに周りからとても信頼されている方がいます。その方に小野寺さんは、濱野さんに嫌がらせなんてしていないということを広めてもらいましょう」
「信頼されている方……それは、誰ですか?」
小野寺は、警戒しながら尋ねる。
「生徒会長様ですよ。生徒会長の言葉なら皆さん信じます。どうでしょうか? 誤解を解くには、悪くないと思いますが」
「それは、確かにいい方法ですね。誤解が解けますし……」
小野寺にとって誤解という言葉は、自分を苦しめていく。その様子を見て雨野は、松原に目で合図した。
「なぁ、小野寺さん、実は、濱野に嫌がらせしてるって事実だったりしない?」
松原は、小野寺に尋ねた。
「そ、そんなわけないでしょ!」
「本当か? めちゃくちゃ動揺してるけど」
「私は、濱野さんなんて知らないし関わりもない!」
さっきまで敬語で話していた小野寺は、今では敬語で話すことすら忘れていた。
「小野寺、安心しろ。オレとお前が協力していたことは、雨野も笠音も知ってる。だからここですべて本当のことをぶちまけても誰も驚かない」
「っ!! ってことは、雨野さんも知ってるの?」
小野寺は、表情が隠せず雨野さんを見た。
「えぇ、すみません。面白くもない芝居をしてしまいました。私は、小野寺さんが濱野に嫌がらせしていたことは、松原君から聞きました」
「松原君……私は、あなたに他言しないように言いましたよね?」
小野寺は、そう言って松原を睨み付ける。
「ん?そんなこと言ったっけ?オレは、雨野のために小野寺に協力したんだ。最初から濱野に嫌がらせすることに興味はない」
「じゃあ、松原君が学年チャットに書き込んだんですか?」
小野寺は、そう言いながら松原を見る。
「いや、違う。書き込んだのは、雨野だ」
「雨野さんが……あなたは、私の弱みを広めて何がしたいんですか? もしかして脅しですか?」
小野寺は、雨野に尋ねた。
「半分そうで半分は違います。小野寺さん、あの書き込みを取り消すのと交換条件に濱野一華さんへの嫌がらせを一生しないと今ここで約束してください」
「なにその条件……」
「何とは? あなたにとって噂が広まるのは、嫌でしょう。それをこんな簡単な条件を飲み込むだけで噂が消えるんですよ?いい話じゃないですか」
「噂が消えるなんてことあるわけないでしょ? 消えたとしても完全には、消えないはずよ」
「それは、そうですね。けど、さっきも言った通り生徒会長様に頼めば完全消滅も可能です。そうですよね?村上先輩」
そう言って雨野は、後ろを振り返る。
「あぁ、もちろん。その保証はオレがする」
「せ、生徒会長……」
小野寺は、村上の顔を見るなり今ここから逃げられないことを確信した。
「オレも可愛い後輩ちゃんを助けたいんだ。だから噂を消してやる。それが例え事実である噂でもな」
最後の村上の言葉から小野寺は、村上も濱野に嫌がらせをしていたことを知っているとわかった。
「わ、わかりました。もう濱野一華さんには、なにもしません。だから噂を消して下さい」
小野寺は、村上に頭を下げた。
「頭を下げる必要はない。オレは、後輩の頼みを受けただけだ。じゃあ、交渉成立ということでオレは、噂を消してくる」
そう言って村上は、この場を立ち去った。
「よかったですね、小野寺さん。あっ、いい忘れてました……」
雨野は、なにかを思いだし小野寺の近くへ移動して耳元でささやいた。
「大山君のことを誰かに言いふらしたら。私、許しませんからね?」
「えっ……?」
「忠告なので気にしないでください」
満足したのか雨野は、松原と笠音と共に小野寺の前から立ち去っていった。
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