救いのための芝居編

第74話 学年チャットでの噂

 長いか短いかよくわからない冬休みが終わり今日から3学期だ。オレは、少し遅めに起き学校へ行く準備をする。するとスマホが振動し、メールが来ていることに気付いた。


「なんだ?」


 スマホのホーム画面を見ると学年チャットからのメールだった。あまり誰かが発言することもないチャットに今は、約1000件以上のメッセージがあった。学年チャットというのは、最近、木之本が作ったチャットだ。学年といっても入っていない人もいる。


「1000件……」


 一体、何の話で盛り上がってるのだろうか。学年チャットを開くとよくわからないメッセージばかりだった。


『えっ?それまじで?』

『本当だって』

『本当だったらヤバくない?』

『なぁ本人に聞いてみない?』

『やめとけよ』



 誰が発言したのかは、アカウントを見ればよくわかる。なんの話だろうか……。一部の会話の内容を見ても意味がわからない。なら、会話が始まったとされるところのメッセージを見るしかないな。オレは、大量のメッセージを見ずに一度上へスクロールする。すると、話が始まったとされるメッセージを見つけた。


そのメッセージは、『1年6組の小野寺雪さんは、1年2組の濱野一華さんに嫌がらせをしていました』という内容だった。


「一体誰が……」


 誰が発言したのかアイコンを見たが名前はなく無名だった。その無名であるメッセージから下へスクロールさせると北原のメッセージを見つけた。


北原は、『みんな信じすぎだよ!名前もない人の言うことなんて鵜呑みにしちゃダメ。小野寺さんが可哀想だよ』と発言していた。


 どうやら北原は、小野寺を守っているようだ。だが北原のメッセージは、あまりみんなに届いていなかった。


『確かに北原さんの言うことはわかるけど、私、小野寺さんが一華ちゃんに嫌がらせをしてるってどっかで聞いたことあるよ』


 濱野と仲が良いと思われる生徒が北原の発言に対してメッセージを送っていた。


「意見がわかれてるな」  


 1000件のメッセージには、小野寺は、そんなことをする人じゃないと否定する者と無名のメッセージを信じる者で分かれていた。

しかし、一番気になるのは、この無名で発言してきた奴が誰かということだ。


 おそらくこの無名は、小野寺と濱野に何があったか詳しく知っている。だとするとかなり人数が限られてくる。濱野と小野寺の件に少しでも関わった人は、オレと濱野、小野寺。そして濱野が相談した濱野のチームメイト。そして……。


 オレは、無名が誰か考えようとしたがいつも学校に行っている時間をとっくにすぎており慌てて寮を出た。




───────────




 教室へ着くと予想していた通りあのことで話題がもちきりだ。


「おはよう大山君……いえ、あけましておめでとう」


 イスに座ると隣から近藤が挨拶してきた。


「明けましておめでとう近藤。学年チャット見たか?」


「えぇ、もちろん」


 近藤は、コクりと頷く。  


「無名の人の発言……近藤は、信じてるのか?」


「いいえ、信じてないわ。名前もわからない人の発言なんて信用できない」


「そうだよな。オレも信じてない」


「あのチャットに参加して発言していた北原さんに詳しく聞きましょ。大山君、放課後の予定は?」


 付いてこいということか?


「すまないな、オレは予定があって、途中からでもいいか?」


「わかったわ、北原さんとカフェで話してるからそこに来て」


 近藤は、そう言いオレは、了解とだけ言う。




──────────




 放課後、オレは、すぐに教室を出た。すると、千佳と廊下で遭遇した。


「そんなに急いでどこに行かれるのですか?」


「オレがどこに行こうとお前には関係ないだろ。オレは、今急いでる。話なら───」


「大山君、少しお時間もらえませんか?」


「話聞いてたか? オレは急いでると──」


「ダメですか?」


 千佳は、ニコニコしながらオレの顔を見て言う。誘い方が上手いな。ここで断れば千佳が何かしでかしそうで怖い。


「まぁ、少しならいい」


「ありがとうございます。ここで話すのは落ち着きませんし私の部屋でもよろしいですか?」


 急いでると言ったはずなのにわざわざ寮へ行くのか……。


「雨野の好きにしろ」


「では、好きにします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る