第63話 嘘を見抜くのもいいがわざと嘘の仕草をされることで騙されることもある
学年別の一騎打ち試験1日目の12月10日。今日は、近藤と笠音が『ダウト』で勝負。監督者は、オレと千佳。立ち会い人として、オレのクラスの静間先生を呼ぶことにした。やる場所は、誰も使っていない空き教室。放課後になったとたん近藤は、オレの席へ来た。
「大山君、行きましょ」
「あぁ、そうだな……」
オレと近藤は、教室を出て、待ち合わせの場所へと移動する。空き教室へと着くとまだ誰もいなかった。
「そう言えば、トランプは新品を使うのか?」
オレは、笠音達が来ていないうちに近藤に聞いておく。
「もちろん。お互いなにも仕掛けないように静間先生に用意してもらったわ」
「それは安心だ」
オレは、監督者であるため近藤を裏でサポートすることが出来ない。なら、今のこの時間で出来るだけのことをしよう。
「近藤、始まる前に1つオレからアドバイスをしておく」
「アドバイス? 何かしら?」
「ダウトは、どこまで嘘が相手に通じるかで勝敗が決まる。嘘をつくような仕草をわざとしたり、嘘をついてないフリをわざとしてもいい。とにかく相手が混乱するような行動をとれ」
「わかったわ。ところでゲーム中は、笠音さんと話しながらの方がいいのかしら? それとも無言のままゲームを進める?」
近藤は、今のうちにオレからのアドバイスをもらっておこうと思ったのかオレに聞く。
「そうだな……近藤が話しかけたとして笠音は、おそらくあまり話さないだろうな。もともとしゃべり上手な方でもないだろうし。だから、近藤は、その場の状況に応じて行動すればいいと思う」
「つまり何も仕掛けず普通にゲームをしたらいいのね」
近藤は、そう言ってゲームをするための机とイスを2つずつ用意した。
「あぁ、それで……」
オレがそう言いかけた時、教室のドアが開いた。
「お待たせしました。近藤さん、大山君」
そう言って教室に入ってきたのは、千佳と笠音、そして浅間先生だった。これで必要な人は、全員揃ったな。
「近藤さん、笠音さん。二人ともさっそく始める?」
浅間先生は、二人に尋ねた。
「私は、いつでも」
近藤は、そう言ってイスへと座る。
「私もいつでもいいわ」
笠音も同じくそう言ってイスへ座った。
「なら、始めましょうか。トランプは、私が配るわね」
新しいと思われるトランプを浅間先生は、必要のないジョーカーを外し、その他の54枚のトランプを二人に均等に配っていく。
ダウトのルールは、簡単。交互に1~K(13)のトランプを順番に出していく。だが、今回は二人でやるためかなり駆け引きが必要になってくるだろう。この場合、出せる数字をわざと出して、相手からカードを奪っていく方法が一番いいかも知れんな。
「じゃ、後は監督者のお二人さんよろしくね」
そう言って浅間先生は、近くにあるイスへ座った。あとは、生徒達だけでやれということか。
「では、始めましょうか。勝負内容は、ダウト。先に手元をなくした方が勝ちです」
千佳は、近藤と笠音にそう言って初めてくださいと手で合図した。
「笠音さん、あなたが先行でいいわよ」
近藤は、そう言って先行を譲った。
「なら……1」
笠音は、裏返されたカードを出した。これは、おそらく嘘はついてない。最初の方は、手元が多いため嘘をつく確率は低い。そのためダウトという必要は一切ない。
オレは、しばらく近藤と笠音のゲームを見ていたがふと隣で黙って見ている千佳が気になった。千佳は、真剣に二人のゲームを見ていた。そんな真剣に見るものなのか? 気づけば、近藤も笠音も手元が少ない。そろそろ嘘をつくはずだ。そう思ってると、千佳が急にオレに話しかけてきた。
「大山君には、嘘をつく仕草はありますか?」
「いや、ないな。というか、そういうのは、自分では気づけないものだと思うが」
「そうですね、人に指摘されない限りわかりません……ですが、それがもしもわざと嘘をつく仕草をしていた場合、相手は騙されてしまいます。心理というものは、難しいものですね」
「そうだな……」
「もしかして急に話しかけてきたことに警戒してますか?」
千佳は、オレの様子に気付き尋ねてきた。
「まぁ……少しは」
「安心してください。私は、ただ退屈しのぎに大山君と話しただけです」
退屈しのぎ……か。あれだけ真剣に見ていたのにそれはないだろ。
「そろそろ決着がつくようですね。残念ながら完敗のようです」
「私の負けよ」
笠音は、悔しそうな素振り一つ見せず言う。
「これでチーム得点は、近藤さんのチームに入りますね。残念な結果でしたが、いい勝負を見させてもらえました」
そう言った千佳は、一礼し、笠音と一緒に教室を出た。
「近藤、満足するような勝負は、出来たか?」
オレは、近藤に聞いた。
「えぇ、勝てたから満足のいく勝負だったわ」
「それは、よかった。けど、どうして笠音に勝負を申し込んだんだ?」
「別に理由なんてないわ。ただ、勝負したかっただけ」
「そうか。じゃあ、近藤が勝った記念になんか奢ってやる。何がいい?」
オレは、机に置いていた自分のカバンを持ち近藤に聞く。
「じゃあ、パフェ……」
「じゃあ、いつものところへ行くか……」
オレと近藤は、教室を出てカフェへと向かうのだった。
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