第30話 パートナー試験制度

「皆さん、手元にプリントは、行き届きましたか?」


 担任の先生が配ったことを生徒へ確認した。


「大丈夫そうですね。では、毎年この時期に行われてるパートナー試験制度について説明します。よく聞いてくださいね」


 先生は、プリントを使って試験内容について説明していく。


 パートナー試験制度というのは、クラス、チーム関係なくランダムで選ばれた者同士が2人2組になって、その2人で試験(2学期中間考査)を受けるという制度だ。


 このパートナー試験制度のデメリットは、相手の成績が悪い場合、チームへ入る得点が低くなることだ。相手と自分の点数を足して2で割ったものが2人の個人個人のチームへ入る得点となる。


 わかりやすく例えると、AさんとBさんが組んでいるとする。Aさんは、5教科400点でBさんは380点だとすれば、400と380を足して2で割ると390となる。

 結果、AさんとBさんは2人とも390点となる。

本来、Aさんは、400点とったためチーム得点は、400点入ることになるが、Bさんのせいで10点失われたことになる。


 だが、反対にBさんは、本来貰えるはずのない10点がチーム得点へと入る。つまり、成績の悪い人が賢い奴と組めばいつもよりいい結果を得ることが出来るということだ。


「私の場合、絶対に下位の人と組まされるわね」


 隣で近藤が小さく呟いた。まぁ、確かに近藤にとっては、この試験は、不利だな。


「近藤の場合この試験制度は、デメリットしかないな」


「そうよ。けど、あなたはメリットしかないでしょ?」


 まぁ、下位の生徒であればメリットだな。近藤との雑談を一旦やめて先生の話を聞くことにする。


「パートナーの相手が誰かは、翌日の朝に学校からメールを送ります。まだ中間考査1ヶ月前ですが、試験のことを考えて授業を受けるように」


 試験の説明が終わり、その日のホームルームは、終わった。



 というのが昨日のホームルームであった出来事。今朝、学校からメールが来て、オレは、濱野とペアになった。スマホの画面を見ていると濱野からメールが来た。


『大山君とパートナーになれて嬉しい! お互い頑張ろうね。ところでロビーのところで今から会えないかな? この試験、絶対に成功するためにも少しお話したいの』


 成績の悪いオレとパートナーになったのに文句一つないメッセージ。むしろ喜んでいる。濱野には、デメリットしかないと思うんだが……こうして喜ぶのは濱野らしい。


 オレは、とりあえず濱野にわかったと返信し、学校へ行く準備をしてロビーへと向かった。 ロビーへと行くとまだ濱野は来ていなかったので待つことにした。


「おまたせ。大山君、おはよう」


 いつも通りテンションの高い濱野は、ニコニコしながらオレのところへ駆け寄ってきた。


「おはよう、濱野」


「じゃ、学校に向かいながら話そっか」


 濱野は、そう言ってロビーを出るので、オレはその後を着いていく。


「大山君、今日の放課後、私が作ったオリジナルテストやってくれない?」


「オリジナルテスト?」


「大山君の実力が知りたいの。苦手なところがわかれば私も勉強教えられるから」


 なんて優しいんだ濱野は……。まぁ、どうせ自分の点数を下げられることが嫌なだけだと思うが……。


「わかった」


「なら決まりだね。いや~大山君は、いい子だねぇ~。勉強が嫌いな子だったらすぐ断るのに」


「断る理由がなかっただけだ」


「そかそか。あっ、そうだ! 言っとくけど実力が知りたいから適当にやったら私、怒るからね」


「わかった……」


 これは、困った……。自分の実力を隠すことは出来ない状況になってしまった。


「じゃ、放課後、図書館前で!」


 そう言って濱野は、校舎へと入っていった。



──────────



 放課後、図書館に集まってからはすぐにテストは、始まった。


「では、よーい始め!」


 濱野の開始の掛け声でオレは、ペンを手に取った。濱野が作った問題か……。簡単でも難しくもない普通の問題だな。それにしても問題を作ることは中々出来ることじゃない。



─────20分後。



「はい、終了ね。今から採点するからちょっと待っててね」


 濱野は、オレからプリントを受けとる。しばらくオレは、採点する濱野を見て待つことにした。


「よしっ、採点完了。ねぇ、大山君。実は、私より成績いいんじゃない? あっ、別に答えなくてもいいよ。誰だって言いたくないことはあるからね」


 濱野は、プリントをオレに返しながら尋ねてきた。返ってきたプリントを見ると全ての問題に丸がついていた。実力でやれといわれたらこうすることしか出来なかった。


「で、大山君。あなたは、中間考査でどんな点数をだしてくれるのかな?」


 濱野は、そう言ってニコッと笑った。


「いつも通り60点ぐらいになるだろうな。平均より少し上の」


「へぇ~。実力は、ださないって感じ? 残念、大山君と私なら高得点も狙えたのに」


 ムスッとした顔をして濱野は、こちらを見た。


「ごめん、濱野」


「ん? 謝ることなんてないのに。私は、大山君の事情あっての行動を止めたりはしないよ」


 相手の行動を深く知ろうとは思わないってことか。


「濱野、テスト1週間前は、一緒に勉強しないか?」


「もちろん。大山君からの誘いなんて嬉しいな」


 ただの勉強の誘いなのに凄い喜ぶな。


「じゃ、そろそろ寮に帰ろうか。大山君、寮まで一緒に帰ろ」


 オレは、濱野の誘いに頷き、カバンを持った。



───────────



「そう言えばさ、大山君って好きな人とかいるのかな?」


 図書館を出て寮へ向かう途中、濱野はオレに聞いてきた。


「いないな。濱野は、どうなんだ?」


「私は、いるよ。けど、なかなか難しい恋なの」


「難しい?」


「うん。同級生なんだけど振り向いてくれるかどうか……」


 話していると寮へ着いていたので会話が強制的に終わる。


「あっ、私、ポスト見てくるね!」


 濱野は、そう言ってロビーにあるポストへと向かう。


「わかった。ここで待ってる」


 オレは、ロビーにあるイスに座り、濱野を待とうと思ったその時、バサバサっと何かが落ちた音がした。


 何かあったのか? 音がしたのは、濱野がいるところからだ。オレは、気になってその場へ移動した。ポストの方へ行くと濱野は、動かずその場で立ちすくんでいた。


「濱野、一体、何が───?」


 濱野の下にある大量の紙が落ちていた。ただの紙が落ちているならなんとも思わなかったが、その紙は、問題が書かれたもの。これは、どうみてもテストの問題用紙……だな。


「濱野、これは───」


 オレがそう言いかけたとき、濱野は、オレの服を掴んだ。


「大山君、私を助けてほしいの」


 そのときの濱野は、今にも泣きそうな表情だった。


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