第18話 体育祭
体育祭当日、今日1日は、授業はなく体育祭のみだ。
「いよいよね、大山君」
隣で体操服を着ている近藤は、オレに言う。
「そうだな……。ん?いつもと髪型が違うがどうかしたのか?」
オレは、近藤がいつものツインテールではなくポニーテールであることに気付いた。
「いつものじゃ走りにくいからよ」
なるほどな……。
「その髪型も似合ってる」
「ありがとう。けど、大山君にそんな言葉を言われてもなぜか嬉しくないのだけど」
「オレがあまり言わない言葉だからじゃないか?」
「多分そうね……」
オレと近藤は、話しながら応援席へと移動する。
「最下位にならないようにね」
「近藤もな……」
──────────
始めの方に行われる競技は、玉入れや綱引きなどだった。確か、椎名と山野が玉入れに出ると聞いたが……。
オレは、応援席から2人のことを探した。5組だから……あっ、いた。2人は、何やらこそこそと話していた。他クラスだが、チームメイトなのでここは、2 人のことを応援しよう。
審判の合図で玉入れが始まった。椎名と山野は、玉を次々いれていく。こういう競技は、最後まで勝敗がわからないな。気付けば、終了の合図があり、玉入れは終わった。
結果は、玉入れは3組の勝利となった。ということは、オレらのチームに20点が入った。玉入れや綱引きは、個人競技ではないので所属しているクラスが勝ったら競技に参加していない人がいるチームにも得点が入るようになっている。
「大山君、次、男子混合リレーよ」
近藤に声をかけられオレは、応援席を離れた。
─────────
「あっ、大山君! もしかして三走者目?」
隣に並んだ濱野は、オレに聞いた。
「あぁ、そうだ。濱野もか?」
「うん、そうだよ。お互い全力を尽くそうね」
濱野は、そう言ってクラスメイトに話しかけにいった。
オレのクラスのアンカーは、江川だ。他のクラスは……1組は松原がアンカーか。これは、いい戦いになりそうだな。よし、チームのためにも頑張るか。
─────────
「いや~、やっぱり松原君には叶わないよ」
男子混合リレーの競技終了後、オレは、濱野と一緒にいた。1位は、やはり松原のいる1組だった。オレら3組は、2位だった。そして、濱野のクラスは3位。
「3位って微妙な感じだな~。それより、大山君の走るの速くて驚いたよ」
「普通に走っただけだ」
「へぇ~」
濱野は、ニヤニヤしながらオレを見てくる。
「なぁ、濱野。一つ聞いてもいいか?」
「ん? なになに? 何でも答えるよ」
「濱野のクラス、2組は何か作戦でもあるのか?」
「もしかして、大山君。敵対するクラスの情報を知って何か悪いこと考えてる?」
濱野は、ニコニコしながら聞いてきた。
「何も考えてない。ただ、1位を目指すために頑張りそうな奴が2組にはたくさんいるはずなのに何も勝つような作戦を練ってない。運動が苦手そうな奴がリレーに出てたり、違和感があったからだ」
オレがそう言うと濱野は、驚いていた。
「すごい観察力だね。実はね、私たちのクラスは、クラス優勝を目指さないクラスなんだ」
優勝を目指さない?
「それはそのままの意味でいいのか?」
「うん。私たちは、クラス優勝は、目指さない」
「そうか……」
おそらく優勝を目指さないのには、何か理由があるのだろうな。
「あっ、そろそろ戻らないと! 平坂君が、待ってるし行くね」
濱野は、そう言って去って行った。
──────────
「美波ちゃん大丈夫?」
応援席に戻ると数人のクラスメイトが北原の回りに集まっていた。
「何かあったのか?」
その場に近藤がいたのでオレは、聞いた。
「北原さんが捻挫したみたいなの。そうだ、大山君。彼女を保健室へ連れて行ってくれない?」
「オレが?」
「そうよ、お願いするわ」
「わかった……」
オレは、仕方なく近藤の言う通り北原のところへ行った。
「北原、立てるか?」
「大山君……うん、少しなら……」
北原は、そう言うがかなり無理しているように見えた。
「背中に乗れ。保健室まで連れていくから」
「い、いいの?」
「歩けない奴をほっとくわけにはいかないからな」
「ありがとう……」
北原は、そう言ってオレの背中に乗った。オレは、先生に伝えてから保健室に向かった。
「ここなら誰もいないし、降ろすぞ北原」
オレは、辺りを見回したあと、北原を背中から降ろした。
「えっ? あ、あの……大山君?まだ保健室着いてないよ?」
北原は、困った顔をしていた。
「もう、演技はやめろ。本当は、怪我なんかしてないんだろ?」
「なに言ってるの? 大山君……演技なんかしてないよ? ほら、ここはれてるし……」
「リップとか使ったんだろ? 水に流せばすぐ消える」
「ふふっ」
北原は、急に小さく笑った。
「大山君、ひどいなぁ~。せっかく頑張って演技してたんだよ? 怪我して、私が一つも競技に出ずチーム得点を減らそうと思ったのに……」
そう言って北原は、頬を膨らませる。
「残念だったな。オレは、北原がこの体育祭で何かすることは、想定してた」
「へぇ~。大山君、面白いこと言うね。わかったよ、大山君の言う通り、演技はやめるね。けど、私は、もう競技には出ないよ」
「そうか……出るかでないかは、自由だからオレは、なにも言わない」
「ありがと、大山君」
北原は、そう言って校舎へ入っていった。
どこに行くのだろうか。気になるが北原とは関わりたくないからこれ以上は……。
「大山君、北原さんは?」
いつの間にか後ろに立っていた近藤は、オレを見て尋ねてきた。
「保健室に連れていった。次の競技が始まりそうだ。近藤も応援席に戻ろう」
オレは、嘘をつき、近藤の背中を押した。
「え、えぇ……そんなに押さないでよ」
近藤には、北原のこと言わないでおこう。まだ知るには早いからな。
──────────
体育祭前半が終了し、お昼休憩となった。
「一人で弁当なんておいしい?」
日の当たらない場所で一人で弁当を食べていると嫌みが聞こえてきた。
「濱野に誘われたが人が多いのは苦手だからな……」
「そう……」
そう言って近藤は、オレの隣に座った。
「えっ?」
「一人じゃ可愛そうだから一緒に食べてあげるわ」
ほっといてほしいんだが……。
「一人なのはお前もだろ……」
オレが、そう言うと近藤はオレを睨んできた。
「っ!!」
「痛い……離してくれ」
隣から近藤に腕をつねられた。
「その弁当、自分で作ったの?」
近藤は、そう言ってオレの弁当を見た。
「そうだけど……」
「料理が作れる男子っているのね」
「まぁ、あんまりいないな。ところでこの状況を誰かが見たらオレらカップルに見えないか?こんな人のいないところに男女二人っきりで……」
「確かに……」
そう話しているとき誰かがこちらへ向かって歩いてきた。
「ん? 大山か……もしかして彼女か?」
こちらへ向かって歩いてきたのは平坂だった。
「チームメイトの近藤だ」
「そうか、勘違いしてすまないな。オレは、平坂匠だ」
「近藤彩沙よ」
「あぁ、よろしくな」
お互いに自己紹介を終え、近藤は、弁当を食べ始めた。
「今のところ大山のクラスが優勝と噂されてるぞ」
「そうなのか? オレは、1組が優勝しそうだと思うが」
「1組は、今さっき不正行為が発覚して得点を下げられたそうだ」
「フライングとかそういうやつか?」
オレの質問に平坂は、首を横にふった。
「綱引きで事前に勝てるように縄に何か仕込んでいたらしい」
「それはひどいな……誰がやったのかは、わかってるのか?」
「いや、それはわからない。たぶん、松原だと思うけどな」
松原か……確かにありえそうだな。
「じゃあ、オレはそろそろ行くな」
そう言って平坂は、背を向けた。
──────────
結果、体育祭は、3組の優勝で終わった。その二週間後、期末考査があり、気づけば、夏休みへと入ろうとしていた。
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