偽りの約束を
柊なのは
入学式編
第1話 高校生活
桜咲く季節、校門の前には、入学式の看板。校門から学校までの道には、満開の桜の木。俺、
今日から通い始める私立星川高等学校は、卒業と共に有名企業といわれるところに就職することが約束される場所。ここでは、6人1チームで順位を争う学校だ。卒業すれば有名企業に就職できる権利が与えられる……というが、それは全員ではない。なれるのは、40チームの中の1チーム。
3組と書かれた場所に自分の名前を見つけ、3組の教室へ一人で向かう。クラスは全部で6クラスあり、1クラス40人。知り合いは、もちろんゼロ。中学で一緒だった人がこの学校にいるとかそんなのは全くない。果たして俺は、チームなんて組めるのだろうか。
3組の教室へ着くと俺は、教室の前に貼っている座席表を見た。席は廊下側の一番後ろか……。
隣の席の人の名前を見ると
入学試験の結果は、受かった生徒のみ順位を見ることができる。ちなみに俺は、240人中182位という真ん中以下の順位。5教科500満点中246点だった。
自分の席へ着くなり俺は教室を全体を見渡した。さっそくチームを作るため声をかけている人がいた。
声をかけない限りなにも起こらない。今、必要なことは、アクションだ。人と話すのは苦手だが、ここは俺も誰かに声をかける努力をしよう。
だが、ここで注意することがある。声をかける人は、誰でもいいわけではない。なぜなら、その6人は、問題が起こらない限りこれから3年間、卒業まで一緒にいる人達だからだ。
ここは、慎重に……いや、待て……どうやって話しかければいいんだ?
人と接することを今までしてこなかった俺は、頭の中でシミュレーションしてみることにする。
やはりまずは、自己紹介からだよな。名前と趣味とあとは……。趣味がない人は、どうやって相手に自分のことを知ってもらえばいいのだろうか。ここは、いっそ嘘をついて……いや、嘘をついたら偽りの自分の自己紹介となってしまうからやめておこう。
俺は、声をかけたその後のことを必死に考えていると隣の席の人からフッと鼻で笑われた。
「あなた、見るからに人付き合いに慣れてなさそうね。どうせさっきからどうやって声をかけようかと悩んでいるんでしょ?」
「人付き合いになれてないのは君もじゃないか」
バカにしたような発言だったので、俺は、彼女に言い返す。
「私は慣れてないんじゃなくて馴れ合いが嫌いなの」
彼女は、読書中だったのか本を机に置き俺のことを睨み付けてきた。
彼女の髪は、ツインテールに黒いリボン。今時、ツインテールとは珍しい。
「じゃあ、似た者同士仲良くしようか。隣の席の大山一樹だ。よろしく」
クラスメイトとの会話が出来るチャンスだと思い、とりあえず会話の間が空かないように俺は、彼女に自己紹介した。
「よろしく? あなたと関わる気なんて一ミリもないんだけど……」
「初対面でその発言は、酷くないか?」
「悪かったわね。私、こういう人だから」
自分で言ってる。入学初日から凄い奴に話しかけてしまったのかもしれない。
「なぁ、近藤。良ければ俺と一緒にチームを組まないか?」
「なぜあなたと……。ていうか、なんで私の名前を知っているのよ」
「座席表を見た時に隣の席の人の名前を確認したからな」
「そう……で、私とチームを組みたい理由は何かしら?」
「俺と似た感じで親近感がわいてな」
俺がそう言うと近藤は大きなため息をつく。
「何それ……。それじゃ、まるで、私が1人で可愛そうだから組んであげようか?ってあなたが言ってるようなものよ」
(そんなこと一言も言ってないんだが……)
「けど、近藤は、このまま1人でもいいのか?」
「いいわけないでしょ。このまま1年間1人でいれば強制退学。嫌でも誰かと組まないといけない」
そう、この学校は、チームを組んでいない状況が1年続くと強制退学というルールが存在する。
「じゃあ、強制退学を回避するために組まないか? 俺は、どちらかといえば1位になることに興味はないし、普通にここで学校生活を送りたいだけ……だが、もし近藤が1位を目指すというなら出来るだけ力は貸すつもりだ」
「1位になることに興味がないのにここに来たのね。私は、てっきりこの学校に来る生徒は、1位で卒業した時に貰える権利を得るためにこの学校に来ているのだと思っていたわ」
確かに近藤のいうことは、間違っていない。ほとんどの生徒は、1位で卒業した時に貰える権利を得るためにこの学校に来ている。
「ねぇ、さっき1位になる手助けをすると言ったわよね?」
近藤は、オレが先ほど言ったことを確認する。
「あぁ、言ったな。1位になることに興味はないが1位なれるだけの力は俺にはある。だから俺と組まないか?」
「何言ってるの? 一体どこからその自信が来るのかしら?」
「信じられないなら騙されたと思って手をとれ。俺が必ずお前を1位へと導いてやる」
俺は、そう言って近藤の前に手を差し出す。
少し考えた後、近藤は、その手を握り返した。
「わかったわ。気が合わない子と組むよりあなたみたいな人と組む方が良さそうだからチームを組みましょ」
近藤は、フッと笑い、今日初めての笑顔を俺に見せてくれた。
「これからチームメイトとしてよろしくね、大山くん」
「あぁ、よろしくな近藤」
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