第2話
「ちょっと電話してくるから、その辺でくつろいでて」
玄関前にいつまでも制服少女を置いておくと警察呼ばれそうなのでとりあえず家の中に入れる。まあ家の中に入れても警察呼ばれそうだけど。
リビングのソファに案内して俺はそそくさと玄関まで戻る。
『あいあい、もしもし?』
今回の一件の元凶といえる香椎に電話をかけると三コール前で出た。絶対に多忙じゃねえな。
「おい、あれはどういうことだ?」
『ん? なに?』
「しらばっくれんな! デリバリーガールだよ」
『ああ、ユズのことか。いやあ、さすがにメイド服で出勤させるのは気が引けたからさ、それはそっちで手配してよ』
「あたかも説明は済ましてるようなリアクションしてんなよ!」
『あれ、何も言ってなかったっけ?』
「ああ」
『この前話してたでしょ? 可愛いメイドさんが欲しいって』
「そんなニュアンスのことは言ったけど。まさかホントに手配するとは思わないだろ」
『この多忙な有能編集者香椎さんがあんたのために用意してあげたんだから。ありがたく使いなよ。私が言うのも何だけどあの子も有能よ?』
「そういうことじゃ……てかメイドじゃないし」
『だから、それはそっちで用意してって。大丈夫、あの子には可愛い制服で身のお世話するだけって言ってるから』
「それでメイド服着せられたら驚くだろ」
『その辺は心配ご無用よ。あの子押しに弱くて流されやすいから』
実の姉としてそこは心配してやれよ。
「つか、そもそもあんな子を俺のとこへ置いてもいいのかよ。俺だって男だし、やることやるぞ?」
『んー、まあその辺はご本人の意思に任せるけど。警察のお世話になるようなことだけは勘弁ね。私の編集者歴に傷がつきそうだし』
「自分の心配かよ!」
『あーちょっと目的地についたから電話切るわね。うちの妹よろしくねー』
「あ、おい! めんどくさくなって強制シャットダウンしようとしてんじゃねえ!」
しかし。
俺の言葉は華麗にスルーされ、通話は終了となった。
香椎の奴、あんな可愛い女の子を手配するとか……まじで有能なんじゃねえのか?
ちょっとだけ見直したぞ。
「お待たせ」
リビングに戻ると香椎妹はソファに座って漫画を読んでいた。
我が家は漫画家の仕事場ということもあって漫画が大量に置かれている。それはもう本棚が幾つもあって、それにびっしりと並べられている。
「あ、ごめんなさい。これは……」
香椎妹は慌てて漫画を自分の後ろに隠す。勝手に読んだことがバレて焦ったというよりは、別の理由のように思える。
ちらと、彼女の持っていた漫画の表紙が目に入ったが、あれは『桃色♡両片思い』だった。
相思相愛にも関わらずお互いに気持ちを伝えられずにもどかしい恋愛をする作品。
ちなみに、ちょっとえっちだ。
「……むっつりか」
「ちち、違いますっ」
* * *
「改めまして、香椎柚葉です。高校二年生です」
「秋山桂太です。漫画家です」
高校二年生か。
高三ならギリギリ許されるところあるけど、これはラインを間違えるとポルノ案件だな。
「お姉さんから話は聞いたけど、えっと……柚葉ちゃん、って呼んだらいいかな?」
「んー、ちゃん付けはなんか気持ち悪いので柚葉で結構です」
なんとストレートな物言いだろう。
初対面の男に対してハッキリ気持ち悪いと言えるその度胸は素晴らしい。
「じゃあ柚葉で。君はお姉さんからどんな内容を聞いたのかな?」
「時給二〇〇〇円のバイトがあるからやらないか、と」
そもそもそんな時給を提示した覚えもない。ちょっと高くないですかね?
高校生のアルバイトっていったらせいぜい時給九八〇円とかでしょ。最近の時給事情は知らんけど。
「ちょうどアルバイトを探してて、お姉ちゃんが知り合いの職場だから安心安全だよって言うから」
「了承したんだ」
怪しい仕事の可能性あるだろ。いやこれ十分怪しい仕事なんですけどね。
俺が言うと、柚葉はこくりと頷く。
「具体的には、秋山先生の身の回りのお世話をすると聞いてます。掃除や料理、とかですね」
「そうだね。でも可愛い制服を着て、という部分が抜けてるね」
「あ、そでした。でも、制服とかあるんですか?」
「あるよ。いやまだないけど用意するよ。とびっきり可愛いの用意しちゃうよ」
「はあ……」
「大事なのはそこだから。でもそこ守れば他はそれなりでいいくらいだ」
「お金をもらう以上、きちんと仕事はします」
責任感の強い女の子だ。
生徒会長とか委員長とかやってんじゃないだろうか。こういう堅物キャラが壊れるところってテンション上がるわ。
いや、むっつりスケベだから既に堅物キャラではないな。
「仕事はおいおい適当にしてもらうとして、とりあえず最重要案件に取り組むとしようか」
「最重要案件、ですか?」
俺が真剣な声色で言うと、柚葉も釣られてごくり、と真面目な表情でオウム返ししてくる。
「制服の調達だ」
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