第8話 朝風呂
〈覚醒〉
ん〜
オレはログハウスのベットの上で目を覚ました。窓からは朗らかな日差しが窓から差し込んでいる。もぞもぞとオレは布団から這い出る。
立ち上がり、全然凝り固まってはいないが、いつもの癖で伸びをしてしまう。
うん。
リー助の布団怖い。カバーに入れて布を一枚挟めば、この深刻な睡眠導入効果を和らげられるもんだと思っていたが、全然変わっていない気がする。〈覚醒〉は眠るときから一日半後に発動するように調整したので、たぶん普通には目覚めれていない。もしかしたらもう少し時間が経てば起きていたかもしれないが、可能性は低いだろう。だって〈覚醒〉を自分に連打しなければ、布団から出ることもかなわないのだから。
しかし、滅茶苦茶快眠。しっかり体を休めることができるのだろう、起きたときのスッキリ感が他の布団で眠った時とは比べものにはならない。たぶんこの布団ならたとえ1時間の睡眠でも普通に寝てたときと同じぐらいの感覚で過ごせることだろう。
つまるところ、この布団を一番必要としているのは社畜の皆さん……!
むしろオレみたいにベットの上で日々を過ごしたいと思っている人には向かない。なぜなら眠らないでごろごろするということができないから。どんなに眠くなくても、眠りに落としてしまうからだ。それにオレは眠りに落ちる前と、起きた後の意識がまどろんでいるあのひと時も好きなのだが、そんな楽しみはこの布団には存在しなかった。
つまりはオレは日中使用するごろごろするようの布団を手に入れなければならないということだ。
寝心地では最高級であるリー助の布団でも、こんな欠点がでてくるのだから、布団は奥が深い。布団の道も一日にしてならずとはよく言ったものだ。
さて、今日は何しようか。
朝風呂。
ふとそんな言葉が浮かんだ。朝風呂と言えば、優雅の代名詞といえるだろう。そもそも家にお風呂がある家庭なんてものは少ないし、お風呂というのは仕事の汚れを落とすためにあるようなものだ。だから公衆浴場は朝には開いていない。それに普通の人は朝から仕事だ。つまりは朝風呂というのは選ばれし者にしか許されない営みなのだ。
そうと決まればオレは早速、チキチキ新生活ぐっずから、ん?ドキドキ新生活ぐっず?……新生活ぐっずからタオルと石鹸を取り出す。
なお新生活ぐっずのセット内容は以下の通りだ。
・タオル大、小 各一枚
・石鹸
・フォーク、スプーン、皿、コップ 各一点
・鍋
・ランタン
・ナイフ
・クワ(刃の部分のみ)
・ほうき(穂の部分のみ)
・縄
これで新生活が完璧なのかはわからないが、とりあえず値段的に損はしてないかなと感じだ。でも、クワとほうきは自分で柄の部分調達してつけろってこと?お好みで使いやすいようにカスタマイズしろということか。それぐらいできないと新生活をおくる資格はないと、そういうことなんですね!いいだろうその挑戦受けて立つ!
まあ、そんなことより、お風呂♪お風呂♪
一階に降りると小人さんたちが机の上にいた。どうやら小人さんもここに住むらしい。元々小人さんが建てたものだからそれは構わないけど、危ないから布団には触らないようにね。まあ大丈夫だろう。小人さんってリー助には全然近寄らないし。
机の上では、小人さん二人が円形のリングの上で取っ組み合い、そのリングを囲うようにしてほかの小人さんが声援を送っている。なんだ、なんだケンカか。戦う小人さんの片方が、もう一方の小人さんをリングから押し出して雄たけびをあげる。
すると横の紙のトーナメント表が進められる。そしてまた違う小人さんがリングにあがる。リングの近くには布を敷かれた台座に置かれたこんぺい糖。気にいってくれたようで何よりです。
「みんな、おはよう。頑張れ」
「ミー!」
お風呂場につくと、まず窓を換気のため少しだけ開ける。こんな森の中でわざわざ男の裸なんて覗く奴はいないだろうが、窓はしっかり高い位置につけられている。でもこの高さだとリー助はのぞけるな。はっ!まさかリー助の指示でこの位置につけられたのか!もうリー助ったらおませさんなんだから。今度本人に聞いてみようっと。のしかかられる未来がみえる。
蛇口に魔力を通して浴槽にお湯を溜め始める。湯気があがり、ふわりと浴槽の木の臭いがかおる。オレは浴槽の淵に腰をかけながらぼっーと溜まっていくお湯をみていた。
……はっ!危ない危ない。ぼっーとしすぎた危うくお湯があふれるところだった。でもこういう何も考えずに魔力だけを出してればいい仕事だったら、寝ててもできるからオレも仕事をやめてなかっただろうに。いや、自分に期待するな。オレはどうせ面倒になって辞めている。
お風呂がたまったので石鹸で髪と体を洗うと、オレは湯船に使った。
「ああ~」
至福の時間。
オレは浴槽の淵に頭をのっけて体を伸ばす。む、浴槽の中にまるでここに腕を乗っけるがいいと言わんばかりのでっぱりが。小人さん天才すぎん。オレは頭の中で微笑む小人さんに敬礼を送った。
この体勢いいかも。ちょっと浴槽の淵が固いけど眠れそう。でもなお湯は当たり前だが冷めるんだよな。今は気持ちいかもしれないが、目覚めたときに冷めていて最悪の気分になるのは勘弁だ。台所にある板を設置したりしてどうにか熱を循環させるような仕組みはできないものか。
ガラガラ
きゃーえっちー。
オレが永久お湯風呂の仕組みを考えていると、お風呂場の扉が空いた。そんなリー助だめよ。正面突破なんて!それは蛮勇がすぎるわ。
お風呂場に入ってきたのは大きな桶だ。オレが今使っている浴槽の半分はあろうかという桶だ。それがひょこひょこ動きながらお風呂場に入ってきた。
桶はとまるとひょいと投げられて地面に着地する。下からでてきたのは小人さんだ。
「ミーミー!」
何かを訴えるように桶と浴槽と蛇口を指さす小人さん。
「桶にお湯を溜めて欲しいのか?」
「ミー!」
どうやら正解らしい。オレは体を洗うときに使った小さな桶をもつと、蛇口からお湯を汲んで桶に入れてやる。その小人は早速大きな桶に入ると、お湯を入れる衝撃でおこる波を楽しみながら遊び始めた。可愛いな。
その後も小人さんはだんだんと集まってきては、大きな桶の中に突っ込んでいく。桶の8割ほどを溜めたころには、おそらく小人さん全員が集まっていた。一人こんぺい糖で口を大きくした小人さんもいる。そうか君が優勝者か。オレはお湯を溜めるのをやめてやる。
小人さんは互いの健闘をねぎらうかのように話しながら、お風呂でくつろぐ。小人さんサイズのタオルを頭にのせると、ふんふんと揺れながらお風呂につかる。
その揺れをみていると何だか眠たくなってきた。体もポカポカしてきたし、これはもう目をつぶらざるおえない。
オレは未来のことなど未来のオレにぶん投げると、現在の心地よさに身を委ねるのであった。
あ~朝風呂最高~。
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