第9話 畑作り
「へ、へ、へっくしょーい!うーい」
『……汚い。おじさんくさい』
うるさいよリー助。お風呂のお湯が冷めちゃったんだから仕方がないでしょ。お風呂で寝て、やっぱりお風呂で寝るもんじゃないなと後悔するまでがお約束だ。
そんな風邪引き予備軍であるオレは外で木の枝を削っていた。
新生活グッズの中に入っていた鍬とほうきの柄の部分を作るためだ。丁度いい太さの木を2本探してきて、これまた新生活グッズの中に入っていたナイフで削っていく。
わざわざそんなことをしなくても魔術で削ればいいと思うだろうが、木を雑に切断するならともかく、持ちやすいように削るなんていうコントールはオレにはできない。前にも言ったが、攻撃系の魔術は苦手なのだ。
樹皮をめくり、でっぱりがなくなるように削っていく。だんだと手が痛くなってきた。力も使うしもう最悪って感じー。
オレは悪戦苦闘しながらも何とか一本削りきった。もう一本を削る気になるかどうかはともかく、一本完成したので、さて鍬の刃をつけようじゃないか。
……どうやってつけるんだ?鍬の刃部分の反対側には凸があり、おそらくここ木に嵌めるのだろう。
オレは心が折れそうになるのをグッと我慢して、木の先端部分を平らにして真ん中に切れ目を入れる。そして切れ目に鍬の刃の凸部分をセットして、石で打つべし!打つべし!
はまった。そして縄でぐるぐる巻きにして固定する。
完成。
完成した鍬を見る。不恰好ではあるが、自分が作ったということだけで愛着もひとしおだ。
ついつい口元に笑みが浮かんでしまうのは仕方がない。たとえリー助が気味が悪そうに見つめていても、そんなのは気にならない。
オレは思い切って振りかぶると地面に鍬を打ちつけた。
ブン パキッ パァン!
「…………」
『……ぷっ』
うぇーん!小人さ〜ん!リー助が人の失敗を笑うよ〜!
オレはバラバラになった鍬を抱えてログハウスに駆け込んだ。
***
そして出来上がったのがこちらになります。店売りの物かと思うほどの鍬とほうきが手元にある。
小人さんに頼み込んでから数分後、これが持ってこられた。
持ち手もすべすべで持ちやすい。オレみたいに縄で巻いて固定しているのではなく、凸部分の形に木がくり抜かれており、ピタッとはめ込まれている。
ぶんぶん振っても全く問題はない。これが職人の技……!
ということでオレはログハウスの裏にきていた。
地面を触ってみる。割と柔らかい。
これなら耕すこともできるだろう。折角だから家庭菜園なるものに挑戦しようと思う。
早速やろうと思うのだが、さっきから視線を感じる。振り返ると家の陰からクロがこちらをみていた。じっとただオレを見つめている。
オレを見なかったことにして土を耕し始める。振り上げてよいしょー。振り上げてよいしょー。うんうん、なんか農家って感じがする。これで首元にタオルとかまいて、日よけの帽子をかぶっていたら完璧だ。
順序に土を耕していたが、オレはピタッと止まる。背後に気配を感じる。振り上げていた鍬をおろして振り返ると、至近距離にクロがいた。
「危ないんだが」
「…………」
いつの間にかオレの背後にいたクロはその複数の目でオレをじっと見つめてくる。一体なんだというのか。いや、まてこの目はみたことあるぞ。はっ!マスターに飯をたかるときにグラスに映るオレの目にそっくりだ。つまりは。
「そうか昨日の野菜か」
ぴくっと反応した。どうやら昨日オレが与えた野菜で味をしめたらしい。オレに飯をたかるとはいい度胸だな。
「だが、残念だったな。野菜は昨日ので全部だ。あれが残ってないならもう残ってない」
愕然とし、よろめくクロ。重い足取りでオレから離れると、口から発射した糸?を飛ばして近くの枝を折って引き寄せる。
ちらちらとオレを見ながら枝の草を食む。昨日の野菜より明らかに食べるペースが遅かった。まるで不味いなぁ不味いなぁと訴えるように。
「ええい、そんな目で見るな。ないもんはないんだよ」
「…………ぺっ」
あいつ……!クロはその辺に糸を吐き捨てると、オレに背を向けて食事に戻った。
お行儀が悪い。全く親の顔が見てみたいぜ。
オレは仕切り直して、また土を耕し始めるのであった。
数十分後、一列の畝が完成していた。
ふぅ、疲れた。いい仕事したな。オレはちらりと見る畝のわきに置いてある種を見る。調子に乗って何種類か買ってしまった種。到底一つの畝では足りないだろう。
だが、もう腕が限界なのだ。魔術師なのだから仕方がない。碌に体を鍛えてこなかった。まあ、マスターみたいに魔術師だけど、筋肉を鍛えているやつもいるけど。
それはともかく、どうするかな。ふむ。
「クーロちゃん」
「…………」
オレは近くの木の葉ををひたすら虚無な目で食べていたクロに声をかける。なんだか警戒している風だ。そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。クロにとっても悪い話じゃないから。本当本当誰でも儲かるいい話ですぜ。
「クロ。野菜は欲しくないかい」
「…………」 ピクッ
「そうだろう。そうだろう。では野菜を手に入る方法を教えじゃないか」
「…………」 ジー
「そう焦るな。オレがさっきまでやっていた作業わかるか?土をふんわり柔らかくしてから、ああやって土の山を作るんだ」
「…………」
「これをすれば、野菜が手に入るんだが、お願いできるか?」
オレがそう言うとクロは無言でオレの横を通り過ぎると、前足2本で挟むように置いてあった鍬を持った。
「おお!」
クロはそのまま器用に鍬を振り上げては下ろしていく。すごい早さで馬力の違いを感じる。畝も明らかにオレより綺麗だ。一体オレのこの五本の指は何のためについているのか。
オレはちょっとだけ傷つきながらも、畝に種をなんとなく間を空けて撒いていく。
あとは水だな。オレはログハウスの裏口から台所にはいり、鍋に水をためて持ってくると、一緒に持ってきたコップで水を畝にかけていく。できれば、じょうろとかが欲しいな。
あ、これは細かい調整いらないし、魔術でやればいいじゃん。ええと、たしか水系統の魔術はこんな感じで。
「〈
畝の丁度真上辺りに水のできた球が浮かぶ。よし成功したぞ。これをあとはゆっくりと畑に落とすだけ。
「あ」
パァン バシャバシャ
制御をミスり水球は弾けた。でも怪我の功名か、いい感じに畝に水をかけることができた。あとは隣で土を耕していたクロにもかからなければ完璧だったな。
「…………」
「正直、すまんかった」
クロはしばし止まったが、また直ぐに土を耕す作業に戻った。野菜パワーがすごい。
それからは特に失敗することなく、クロが土を耕し畝を作り、オレがそこに種を植えて水をまいていった。
「ふぅ」
オレは額の汗をぬぐう。
オレとクロの前にはそれなりの規模の畑が存在した。これから育つ野菜が楽しみなるできだった。
「お疲れ、クロ」
隣のクロの足をぽんぽんといたわるようにたたく。ただクロはオレに何かを催促するように見つめてくる。
「…………」
「なんだ?」
「…………」
「野菜か?うん手に入るぞ。数ヶ月後に」
「……………………シャーーーーーーーー!」
「ぐわぁ!こらクロのしかかるな!ちょまっ本当に重い!ぐげぇ……」
その後畑は、クロと小人さんの管轄となった。解せぬ。
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