第4話 森のログハウス
まず目に入るのは屋根付きのデッキテレス。リクライニングチェアなんて置いてしまってお昼寝するのにぴったりな場所だ。晴れの日には木々の葉擦れの音を聞いて、雨の日には雨音を聞きながらごろごろしたりして、クオリティオブライフがとどまることを知らない。
すりガラスがついたドアを開ける。ガラス……どこで手に入れたんだ……
また家全体は茶色の木で作られているのだが、一部白い木がアクセントとして使われており、このドアも綺麗な白色だ。一体どこから持ってきたのだろうか。オレはあんなに森を彷徨っていたというのにこんな色の木は見なかった。
中に入るとまず広々としたリビングが広がっている。流石にソファーは置いてないが、石造りの暖炉が設置されており、その前には低めの机が置いてある。
奥に進むとキッチンダイニング。4脚の椅子にテーブル。キッチン部分には蛇口も存在する。まさかこれは……オレは魔力を込めながら蛇口を捻った。水が出てきた。うん。隣に少し移動する。ツマミが付いた板が置いてある。蛇口と同様に魔力を込めながらツマミを回す。板が熱くなってきた。
次にお風呂場とトイレを確認する。お風呂は木製の浴槽と水とお湯がでる魔道具。トイレは陶器製。もちろん水洗だった。
えっと、小人さんのなかに職人がいる?
あと一体下水関係はどうなっているのだろうか。地下に垂れ流し?いやきっと小人さんが何かしら対策はしているだろう。そうに違いない。
オレはとりあえず現実から目をそらして、2階部分に上がることにした。2階はどうやら客室のようで4部屋同じつくり大きさの部屋が並んでいた。部屋の中は窓以外なにもなく殺風景だ。
2階の隅にある梯子を上ると屋根裏が存在した。屋根裏と言っても割と高さと広さがあり、ここで住めという言われても問題ないぐらいだ。
オレはログハウスを全て回ると、家の前に戻ってきた。
「ミー♪」
「ミーミー♪」
「ミミ―♪」
家の前にはやりきった笑顔で額の汗をぬぐう動作をする小人さんたち。
「本当の本当にこの家はオレのために作ったのか?」
「「「「「「ミー♪」」」」」」
全員一斉に頷いた。
「ありがとうな、小人さん……今のオレの家より豪華だったよ……」
オレが今住んでいるのは、無職のお時に見つけたボロアパートだ。風呂トイレ共用、食堂付き。ただし家賃と食堂料金は別。自分の部屋はほんとんど寝るためだけの部屋になっている。まあ、適当に部屋を決めて、不便だなと思いつつも面倒で引っ越さなかったオレが悪いんですけども。
オレはあのボロアパートに思いを馳せ、そして上司の顔を思い浮かべながらある決意をした。
「リー助、オレ決めたよ」
『だからリー助と呼ぶなと……というか貴様、自分を殺そうした相手と普通に雑談を試みるな』
「いや、まああれはオレが不注意が原因だし。死んでないからいいよ。それよりもだ。オレは決めたんだよ」
『……はぁ、何をだ』
「オレ、仕事辞めてここに住むわ」
こんなに頑張って作ってくれた家に住まないなんてもったいないし、小人さんにも申し訳が立たない。あと、怒られるの嫌だし。
……仕方がないだろ!大の大人が大の大人に正座されらてくどくどと正論で追い詰められるんだぞ。すごい精神的にくるんだ!全部確実にオレが悪いんだけど!もう本当にごめんなさい!
『軽いな。人族にとってここは決して住みよい場所ではないかと思うがな』
「大丈夫。大丈夫。水は魔導具で出るし、食べ物は最悪食べなくても〈完璧な睡眠〉で何とかなるし、この辺でオレを倒せそうな魔物もいなかったし」
『ちっ、そうか貴様にはあの滅茶苦茶な魔術があるのだったな……随分と自分に実力に自信があるようだが、貴様は実は名の知れた魔術師なのか?』
「ああ、名の知れた魔術師だ」
リー助はとても胡散臭そうな表情をした。
「信じてないな?これでもオレは国では民の英雄と呼ばれてるんだぞ」
『ぶふぅ』
「鼻で笑いやがったなこいつ」
『くくっ、お前が英雄?民の?そんなマヌケ面でか?くはは、褒めてやろう。久しぶりに愉快な気持ちになったわ』
「さいで。つまらない魔物生を送ってんだな」
人族だいたいこういう顔だよ。魔物には分からんと思うけどな……え?本当にオレの顔はマヌケ面じゃないよね?今度誰かに聞いてみるか。やばいマヌケ面って答えそうな知り合いしかいない。仕方がないな、オレだって聞かれたらマヌケ面って答えるもん。
民の英雄に関してはもう諦めの境地だよね。自分でも確かにオレには似合わないなと思っているが、実際にそう言われているのだからしょうがない。全く照れるぜ。
なお民の英雄として人前に出るときは、鎧で顔を隠している。お前の普段の姿を見せると英雄のイメージが壊れるからだそうだ。でも前にその鎧姿で広場のベンチで昼寝しちゃったんだよな。そろそろ上司にバレてるかな。
まあ、仕事を辞めるオレにはもう関係ないな!
「それで、いいか?オレがここに住んでも?」
『何故我に聞く』
「え?だってここお前の縄張りだろ。ここだけやけに魔物が近づかないのはお前がずっとここに住み着いているからだろうし、オレがお邪魔するんだから許可をとるのは当然だ」
『……勝手にするが良い。どうせ力づくでも言うことを聞かせられるのだろう?』
「いやいや、無理無理。だってオレ攻撃系の魔術苦手だもん」
『ふん』
リー助はそんな反応を見せると自分の体に顔を埋めて眠ってしまった。勝手にして良いと言ったし勝手にするか。
……羊ってそうやって寝るんだ。すごいな完全に羊毛のボールだ。
うずうず。
そぉー。
はっ!危ない危ない。思わずまた触りそうになってしまった!一度町に戻らないといけないから、我慢我慢。チラッ。
…………うし、耐えたー。さて町に帰還するか。仕事を辞めに。
……町どっちだ?
オレは小人さんたちの前まで来ると、失礼のないように目線を合わせる。つまりはうつぶせに寝転がっている状態だ。
「ミ―?」
「すみませんが!人里はどこでしょうか!?」
見よ!この日常的に鍛えた美しい土下寝を!
「ミー」
小人さんはみんな同じ方向を指さした。さすがは小人さん。困ったときの小人さんだ。
「ミー♪」
「うぉ、なんだなんだ」
頭の上に一人の小人さんがのってきた。ぺしぺしと頭を叩いたり、髪をひぱったりしてくる。髪を両手でそれぞれ持ちまるでオレを操縦するように……
「もしかして案内してくれるのか?」
「ミー♪」
「そうか。ありがとな」
オレは小人さんを落とさないようにゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ、一人道案内として借りていくな」
「ミー」
「お礼にお土産買ってくるから、その家で待っていてくれると嬉しい」
「ミー!」
どうせもう森に住むのだ。少しぐらいお金を散財しても問題ないだろう。あとは生活必需品の買い出しもだな。
「じゃあ行くか」
「ミー♪」
「セツナ、いっきまーす!」
オレは小人さんたちに手を振ると、カバンをかけ直して一人の小人さんをおともに森へと入っていくのだった。
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