第5話 【3分で読める882文字】

《なあ、相棒。そろそろ無視はやめてくれよぉ?》

「……お前の声は俺にしか聞こえないんだろ?」


《おっ! ようやく反応を返してくれたなぁ?》

「……周りに人がいる状態で、ブツブツ独り言を口にするような奴なんて評価は受けたくないんだよ」






 コメットは口元を手で隠しながら小さくそう呟く。いまだ飛行艇に揺られる中、窓の外はすっかり夜になっていた。






 操縦士とコメット以外は眠ってしまっている。


 冷めた星の光と商売女の爪のように細長く鋭い月によって、眼下の荒れ地に広がる複雑に連なった岩柱がどうにも枯れた骸の手足に見え、さながら闇の静けさとあいまって墓地のような様相を呈していた。



 ここに足りないのは墓標とマリーゴールドの花束くらいだろう。



 飛行艇の排気口から出る息が白い。寒い夜になりそうだが火を起こす燃料もなければ、火を起こして良いわけもない中で、一番賢い方法はと言われれば日の出を待つことくらいだろう。


 操縦士の座るバケットシートに吊り下げられている羅針盤が揺れる。


 風や水に侵食されて朱や黄色に変色し、角砂糖のように高く積みあがっている岩層。


 かつては水源があったであろう事が窺えるヒビ割れた粘土層。


 凍えるように聳える石灰岩の岸壁。汚れた奥歯のように平坦な孤立丘や岩のアーチ。


 深い裂罅や乾いた峡谷、歯並びの悪い稜線。すべて小さな窓縁に治まってしまった。




 羅針盤が揺れる。




 日の出前のまだ薄暗い時間―― 彼らは基地に到着した。飛行艇が完全に停止する前に、続々と兵たちが機体から降りて大声で指示を出し始めている。コメットはフネラーリアと共に行き交う四駆やハンヴィーを避けるように歩き、ゲートバリア沿いに進んでいく。



 軍事基地はさながら小さな町のようであった。



 自立した共同体に見られるような便利な施設・設備が内部に多く存在する。幅広な通りは一定の間隔で街灯が設置されており、新兵卒のように整列して並ぶ家々はどれもこじんまりしている。各家の前には小さな庭が付いており、楓の木の代わりに請負業者により形の整えられたヤシの木が佇んで少し肌寒いこの東部王国軍事基地において妙に南国の雰囲気を醸し出している。





 半年後。

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