第2話 オイラは弾丸 【3分で読める1252文字】
裂傷や骨折・打撲による鈍痛などがあるにもかかわらず、飛行艇(カフチェーク)が離陸すると乗り合わせている王国兵たちは金属製の座席にもたれて安堵するように微笑んだ。
操縦士の座るバケットシートに吊り下げられている羅針盤が揺れる。
「死なずに済んだか……」と若い王国兵が項垂れながら小さくそう呟く。新兵だろうか。
制御盤のライトが明滅し、操縦士が通信機で誰かに何かを叫んだように思えたが、一連の駆動音にかき消されて詳細には聴こえなかった。
すると、飛行艇が横風に煽られて大きく揺れる。身体が斜めに滑り、真向いに座る負傷兵の血に染まった太腿に金属のリベットが食い込み、彼は「うぐぐぐ……」と苦悶の声を滲ませる。
傍らにいた新兵が見かねて、ストラップを掴むと彼の傍まで伸ばし、腕に巻き付けて姿勢を強引に整えてやる。負傷兵は体勢を固定すると「すまない」と新兵に礼を伝えた。
飛行艇は強風に幾度か煽られたが、その後安定し、帝国軍の地対空攻撃射程距離外に離れて東の基地に向かう。
《なあ、退屈だ~ 言葉遊びでもしようぜ~》と声が聞こえる。
無視する。
「見ろ…… あの丘はさっきまで俺たちがいた所だ。爆撃で穴になってる」
負傷兵が窓の外を関節の欠けた人差し指を立て、礼を送った先ほどの新兵にそう言った。
「黒煙が立ち上ってますね」と新兵が答える。
国のためと奮い立って戦争に参加するにつけても、やはり片時も戦地においては生き残る命と思わなかった弱輩の自分が、こうまで幸運を重ねてきたかと新兵は思わすにはいられなかった。
それもこれも薄命と思われた自身の灯火を想い、死に姿を想像しながら一所懸命に戦った愚直さのおかげで生き残ることが出来たのかもしれない。
一か年真黒な服を両親たちに着させ、薄鈍色に変わった顔を浮かばせるのは御免だ。
なぜなら彼は生きて帰りたいのだから。
《よかったなぁ~? オイラのおかげだぜぇ? 生き残れたのはさ》と声が聞こえる。
無視する。
「俺は第三部隊所属の『フネラーリア』だ。お前は新兵か? 名前は?」
「はい。第二部隊所属の『コメット』といいます」
故郷の友人たちが今の彼を目にしたら、勇ましい盛りの姿と見えて、束の間にまたひときわ立ち勝ったように思われることだろう。それほど彼は胸を張ってフネラーリアの問いに答えた。
「その顔を見ると、ようやく『新兵』は卒業したようだな」
「……はい。ただ生き残ることだけを考え、戦いました」
「ハハハハ! それは重畳! 生きていれば何とかなる。俺も、お前もな」
「ありがとうございます。……ッ! イテテテテッ」
コメットも肩を負傷していた。戦場で狙撃され、すんでで躱すも左肩に被弾したのだ。
そして、今も弾丸は『体内に』残っている。
銃弾が体内に残ったら何故ダメなのか? 基本的に弾丸は鉛で作られている。この鉛が身体の中に残ると鉛が溶け出してきて鉛中毒になってしまい、かつ鉛が接触している部位が腐ってくる。したがって遺残した弾丸は出来るだけ速やかに摘出しなければならない。
そのはずなのだ。
あの時の状況は今でも鮮明に思い出せる。
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