【連載全2話】少女の話・A 『1話あたり3分で読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話 【3分で読める1401文字】
季節は衛星夏(スプートニクサマー)の頃。
夏祭り、海、おいしい食べ物、花火。
たくさんの楽しい思い出に過去を振り返る暇すらないこの季節が少女は大好きでした。
そして、なによりアイスが食べられます。
チョコレート、バニラ、ストロベリー、ミント、ファッジがけバニラ、プラリネ……。
アイスクリームのためならどんな事でもする自信が彼女にはありました。
少女はその日、就寝前の読書を終え、本を閉じると、母と父に「おやすみ」と伝えて、二階にある自分の部屋に向かいました。扉を閉めて、明かりを消し、布団の奥に潜りこみます。
机の上にはネイルポリッシュとリムーバーが、部屋の隅にはスパンコールの散りばめられたTシャツが綺麗に折り畳まれています。
静かな闇に包まれた部屋はシンとしていました。
壁に貼ったポスターやミニテーブルの上に放り出されている欠けたクレヨン。
目が慣れてくるにしたがって部屋の輪郭が見えてきます。
クローゼットの扉の白さが少女にはヤケに不気味に感じられました。
そして、少女の呼吸は乱れます。
廊下側の扉の隙間から三センチほどの細くて黒い影がヌヌヌッと部屋の中に伸びてきたのです。母も父もとっくに眠っているはずです。では一体何でしょう?
その影はなんと壁をのぼり、ドアノブを引いて扉を少しだけ開けたのです。
少女は怖くて動けませんでしたが、意を決して布団を剥ぐと、駆け足で扉を閉めに向かいました。これで一安心です。
しかし、少女の背後に誰かが立っていました。
それは『魔術師(テンタシオン)』でした。
見た目は普通の若い男の人です。
少女は母と父から聞いたことがありました。
子供を誘惑して罠にかけるそうです。
気まぐれで人を殺すそうです。
その気になれば世界を滅ぼすことができるそうです。
そして、残酷な遊びが大好きなのだそうです。
「これから遊戯(ゲーム)をしよう」
「…………え?」
「明日きみが眠りから覚めたら一番好きな服に着替えて、この町の大通りに向かいなさい。そこで並んで建っているデリ、カジュアルレストラン、カフェ…… 三軒の店の窓から中を覗いてほしいんだ」
「…………え? え?」
「いま言った三軒の店はこの時期アイスクリームを客に売っている。どれも大人気だそうだ。これからやる遊戯はね…… 『フレーバー言い当てゲーム』だよ」
「ナニソレ……」
「ルールは簡単。店の中を覗いた時に店員が手に持っているアイスのフレーバーを言い当てるだけ。単純だろ?」
「な、なんで…… なんで私が選ばれたの?」
「君のお父さんは元傭兵だったよね? それもかの有名な『背中あわせの戦い』から生きて帰った幸運な男。ボクはね、人の運を試すのが好きなんだ。だから遊戯が大好きなんだよ。今日は君のお父さんと遊ぶつもりだったんだけど…… 娘がいることを知って気が変わったんだ」
「もし、もしもゲームに負けたらどうなるの?」
「う~ん。ボクは気が変わりやすいからどうなるか自分でも分からないけど―― とりあえずこの世界でも滅ぼそうかなって思ってるよ。君の友達も、好きな男の子も、お母さんも、お父さんも、全員殺そうと考えてる。だから頑張ってね」
「う、うそだよね……?」
「アハハハハ! そう思うんなら明日は一日中ずっと寝てて良いよ。まあ二度と目を覚ます事はないだろうけどね。とりあえず、世界の命運は君に懸かってるから」
「…………」
「さあ。もう起きる時間だよ? ゲームスタートだ」
少女は目を覚ましました。
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