【改】アンジュの魔導書

花道優曇華

File1.最年少作家殺人未遂事件-色欲-

第1話「本を開く者」

作家とは自分の考えや夢を作品として周りに話す仕事だと思う。書きたいものを

書き、そしてそれは人々の夢となる。

街に配られている新聞の一面を飾っていたのは若い作家、アンジュ・イングラム。

彼女は若くして優秀な成績を収めていた。彼女の次回作を期待している読者は

多い。本人はその期待に焦りを感じていた。作家と言う職業は一瞬で名前が

忘れ去られてしまう。面白いものを書き続ける必要があるのだ。小さな音が

耳に入った。この家にはアンジュ一人しかいないので静かなのだ。


「こんな本…あったかな…」


自室にある本棚は全て埋まっているはずなのに見覚えのない本が一冊、床に

転がっていた。この本が何処かから落下したらしい。少し埃を払ってみる。

見慣れない字だがどうにか読める。妙な本だ。鍵穴がある。そういえば家に

ずっと何に使うのか分からない鍵があった。それを使おう。


「あった…!」


机の引き出しの奥に眠っていた小さな鍵を見つけ、早速鍵穴に入れてみる。

この本の鍵だったらしい。なら、この本は元々この家にあったという事か。

元は三人家族で一軒家に暮らしていた。母は学校の教師をしていた。父は医者を

していた。そして自分は大きくなって作家になった。実は18歳である。


「うわぁッ!?―」


鍵が開くと、喜ぶように本がひとりでに開いた。一瞬の閃光で目が眩む。

その本をアンジュは再び手に取り、ページをめくっていく。真っ白。

何も書かれていない。扉を誰かがノックしたのでアンジュは扉を開く。

しかし人がいなかった。


「誰もいない…」


扉を開き、風が吹いてくる。木々が騒めく。そよ風が突然、強くなりアンジュは

顔を背け、扉を閉めた。


「あ、先生!閉めないで!!」


アンジュを先生と呼び慕う男は彼女より年上で髭を生やしている。編集者の男

ドルトンだ。彼はアンジュが小説家になるキッカケを作ってくれた人物だ。

彼女の作った最初の小説を見て、彼はアンジュは必ず素晴らしい作家になると

確信し、あちこちで頭を下げて回ってくれた。その努力が実って、今のアンジュが

いるようなものだ。


「さて、どうですかね先生。次回作の案は浮かんでますかな」

「それが…まだ…ごめんなさい。早く考えて、手を付けるから」

「いえいえ!先生、焦ったら浮かぶものも浮かびませんよ」


ドルトンは彼女を応援し、全力でサポートする。そして催促することもしない。

自分のペースでやってこそ、アンジュは良い作品を作れるのだ。


「ドルトンさんも体は大丈夫なんですか?一週間前に事故に遭ったって聞いて

気が気じゃなかったんですよ」

「あっはっは、大丈夫ですよ。いやぁ、死んだと思いましたよ俺も。でも

大丈夫ですからね」


ドルトンは二の腕を叩いた。見ての通り、健康ですよ。そう言いたいらしい。

その日、ドルトンはこの家に来ていたのだ。その帰りに事故に遭い、生死を彷徨い

今がある。ドルトンが帰った後にアンジュは不思議な体験をすることになる。

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