(3)
目隠しはされなかった。
どうやら古賀市内から新宮町を抜け、福岡市内に入ったらしかった。
第2次朝鮮戦争……通称「1週間戦争」……以前に、ソウルに入った旧・北朝鮮の工作員も、こんな気持ちだったのだろうか?
地獄だと思っていた「外」は……見掛けだけは近代的だ。少なくとも、福岡の市街地は……。
車のサスペンションの性能なのか……それとも本当に道が整備されているのか……車の上下の揺れも「真の日本」より少ない気がする。
だが……多分、見せ掛けなのだろう。
わざわざ、近代的な建物が並んでいる経路を選んでいるのだろう。
そうか……あの自称「レスキュー隊員」の装備も、私に「『真の日本』は劣った地域だ」と云う観念を植え付ける為に虎の子を駆り出したのだろう。
私は……これまた筑豊TCAに有ったどの病院よりも立派に見える総合病院に案内された。
看護師らしき中年の男から検査内容を事務的に告げられる。
普通の人間ドックと大して代りは無いようだ……が……。
レントゲン。
尿検査。
胃カメラ。
採血。
エコー。
検査着に着替えさせたれた私は、淡々と事務的に筑豊TCAでも半年に1度は受けていた人間ドックとほぼ同じメニューを消化していき……。
問題はCTスキャン時が終った時に起きた。
スキャンが終った時、検査技師と並んで……自称「レスキュー隊員」が居た。
「この後、予定していたMRIの検査は中止します」
そう説明したのは……検査技師ではなく自称「レスキュー隊員」だった。
「今後2〜3日間は、今朝まで居たのとは別の場所に宿泊していただきます」
「『今朝まで居たのとは別の場所に監禁する』の間違いでは無いかのね?」
「貴方が置かれている状況をどう解釈するかは御自由に……。ただし……今後、貴方は一生に渡って病気や怪我をした場合にはMRIその他の高磁場を発生させる医療機器は使用出来なくなります」
「はあ?」
「もし、貴方が社会復帰されても高磁場が発生する場所に近付く仕事に従事された場合には生命の危険が有ります」
「だ……だから……何を言っている? そもそも……高磁場が私にとって危険? どうなってる?」
「詳しい説明は……貴方が実験後も生き延びて正気を保っていた場合に説明します。我々にも、まだ判っていない点が有る事だけは御理解下さい」
「おい、実験って何だ?」
「貴方の脳内には正体不明の電子機器が埋め込まれています。
「ま……待て……」
自称「レスキュー隊員」が、ほんの数秒で言い終えた言葉の中に……あまりに多くの情報が含まれており……それも、本当だとしたら……いや、本当の筈が無い。
だが、私の所属会派のリーダー格の人々が殺されたのは本当だろう……。
実感は湧かないが……理性では理解出来た。
「では、貴方が生きている状態で、貴方の脳内の電子機器がどのように動作しているかを推測するのに必要な情報を得る為の実験に御協力願います。明日からの2〜3日間に関しては、突然の病気や怪我の場合を除いて、貴方に同意なく、貴方の体を損傷させる行為や医療行為は一切行ないません」
「私に拒否権は……?」
「有りません」
「君の見解でいい。私に……人権は有るのか? つまり……弁護士は……」
「今、このような件に詳しい弁護士を探しています」
「では……仮に私が本当に脳改造されていても……私は、こちらの法律では『人権を持った人間』なのか?」
「現在はグレーです。ただし、将来的に貴方のような存在も『人権を持った人間』と認められるようになる法改正または法解釈の変更が行なわれる可能性は無視出来ない程度には高いと思われます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます