第一章:シュミラクラ
(1)
私が監禁されている部屋に入って来た2人組の強化装甲服の男は、ペンライトのような機械を、私の眼球と手と指にかざした。
私を拉致した「正義の味方」を詐称するテロリスト達の中にも似たタイプの強化装甲服を着装している者達が居たが……この2人が着装しているものは、装甲をオレンジ色に塗装され、体の各所にライトらしきものが、いくつも付いていた。
「あくまで形式的な質問です。顔および生体認証により、貴方を筑豊TCAの
「違うと嘘を言っても……大した時間稼ぎにはならんのだろう?」
私が監禁されていた部屋は、ドアを外側からしか開けられないのと、窓に鉄格子が有るのを除けば……ビジネスホテルの一室に見えない事もない。
「その通りです。貴方のDNAおよび既知の非DNA性遺伝情報を調べた結果、貴方に放射線に対する脆弱性が有る確率は無視出来る程度と判明しました」
「何故、そんな事を私に告げる必要が有る? 私に原発の廃炉作業でもさせるつもりか?」
「いえ、これから精密医療検査を受けてもらいますので。御存知とは思いますが、稀にですが異能力と引き換えにCTスキャナによるX線被曝でも重大な健康被害が起き得る者の存在も明らかになっていますので、念の為、確認させてもらいました」
やっかいな世界だ。
ここまで複雑化した世界を……「外」の連中は、どうやってコントロールするつもりなのか?
だが……単純で判り易い私達の「真の日本」は……こいつらが滅ぼし……。
「ところで、私は捕虜の立場のようだが……君達も姓名と階級や所属を明かしてもらえないかな? あと、安っぽいドラマのようで恐縮だが……私に弁護士を呼ぶ権利は有るのかね?」
「はい。我々の姓名を明かす訳にはいきませんが……」
ほら来た。
「我々は、この地域のレスキュー隊の者です」
は?
「いや……待ってくれ……自称『正義の味方』でも、軍事組織でも……警察機構でもなく……レスキュー隊?」
「貴方の聞き間違えではありません。我々の所属はレスキュー隊です」
「ちょ……ちょっと待ってくれ……まさか、私をここから助けてくれるなんて事は……」
「ありません。一応は政治家なので、こちらの社会制度は御存知だと思いまして、説明を省略させてもらいました。何故、我々が貴方の身柄を管理しているか、説明した方がよろしかったでしょうか?」
「あ……ああ、たのむ……」
「こちらでは、レスキュー隊・各警察機構・各公的軍事組織・特殊武装法人……通称『正義の味方』『御当地ヒーロー』……は、各々、独立した組織ですが……あ、厳密には『組織』と呼び難いものも有りますが……連携して動く場合には、我々レスキュー隊が最上位となり、各組織で意見や判断に相違が有った場合は、レスキュー隊の判断が優先されるシステムとなっています」
え……えっと……どうなっている?
まただ……。
言葉の表面上の意味は判るが……そんな社会システムがマトモに機能するとは……いや……どうやら「外」は……私の想像していなかった世界のようだ。
「そして、弁護士の件ですが……」
「あ……ああ、呼んでもらえるのかね?」
「これから行なう検査は、貴方が厳密な意味で人間かを確認する為のものです。貴方が人間ないしはその類似物と見做せない限りは……貴方には弁護士を呼ぶ権利は有りません」
「ま……待て……私は……さっき、君達が言った筈だ……。私に変なDNAは無かったと……」
「違います。貴方には……
「へっ?」
「貴方は生体組織と電子機器やマイクロマシンや生物機械により構成された、藤田正一氏の記憶その他を引き継いでいるように見える自分を『藤田正一』だと思っている人造物の可能性が有り、そうだった場合、改造される前の『藤田正一』氏と同一人物と見做すべきかは……法的にも哲学的・倫理的にもややこしい問題になります」
「ま……待て……」
「すいません。もし、貴方が、自分を『藤田正一』だと思っている人造物だった場合、この事に関して……後で専門家から説明が有る筈です」
忘れていた……。
私もまた……このややこしくなった世界の一部だった。
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