第58話 成長の手応え

 迷宮ダンジョン入口近くのギルド施設の壁にもたれかかりながら、シリアルバーや野菜ジュースで昼食をとりながら休憩しています。この場所にキッチンカーや屋台を出したら結構儲かるのではとか、ギルド施設にイートインスペースを作って欲しいと嘆願してみようかななどと考えていると、フルプレートアーマーにナイトシールドを装備した人やいかにも魔法少女といった格好をした、一言で言えば仮装集団といった出で立ちの人達が、撮影機材を担いだ人達を引き連れてダンジョンに入っていった。レベルが上がり、ステータスも上がっていけば、フルプレートアーマーでも普通に動けるだろうから防具の選択肢としては有りだと思いますがあれは、


「彷徨う鎧ですね」


 ブフッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ


「モンドさん!いきなり笑わせにくるの、やめてください!」


 ちょうどオレンジジュースを飲んでいたマコトから抗議の声が上がりました。


「すみません、大丈夫ですか?」


 思わず口をついて出てしまった一言に、マコトが大惨事になってしまいました。


「今の人達はテレビの撮影かな、それともDウェイバーの人達かな!」


 シズクはさっきの撮影機材を持って入った人達の事が気になるようです。マコトとシズクが大騒ぎしないことから、推しのDウェイバーではなさそうですね。


「それでは、僕達も探索再開といきますか」


「「「おう!」」」


 4層目からの再開です。天然の洞窟といった感じですが、ところどころに罠が仕掛けられています。その罠も解除されているものもあったので、ここにも他の人達の気配を感じられます。


「1体」


 アキラが何かがいるのを探知したみたいです。慎重に進んでいくと、そこには体長2m程でがっしりした体格に狂暴な豚の頭をしたモンスターがこん棒を持って立っていました。


「オークですね。薄い本のような展開にならないように気を付けなくては」


 シズクの呟きは後半はよく聞き取れませんでしたが、あれがオークだという事がわかりました。僕のイメージではオークは屈強な鬼のような戦士だったのですが。


 まだ、こちらに気がついていないオークに対し、アキラの【雷魔法】が飛びます。僕も素早く飛び出しますが、初見のモンスターなので何があっても他の行動に移れるように慎重になりつつも、出来るだけ早く接敵します。


 僕が飛び出しオークがこちらに気付いたタイミングでアキラの魔法が命中、怯んだところにこん棒を持った右手と右足にバールのようなものを引っ掛け、引き摺り倒すようにオークの右側を駆け抜ける。体勢が崩れたところへアキラの槍が喉を一突きで終わりました。


「いい槍」


 前回手に入れた槍が手に馴染むのか嬉しそうです。今までの槍に比べ、刃渡りが長いので重量バランスの違いで扱いにくくなるのではと少し心配してましたが杞憂に終わりました。


 洞窟の奥へと進んでいくと、また、こん棒を持ったオークが1体いました。新しく会ったモンスターなので、全員が戦闘を経験しておこうという事で、今回はマコトが前衛です。


 さっきと同じように、マコトの牽制の魔法から始まり、怯んだところに剥き出しの爪先へバールのようなものを全力で振り下ろす。痛みで動きが止まったら、こん棒を持った右手と右足にバールのようなものを引っ掛け後ろに回り込み動きを阻害する。マコトも接敵し、両手に持った小太刀による乱舞を喰らわせる。見事に人体の急所ばかりを狙った斬撃の乱舞に気が付けばオークは光の粒子へと変わっていきました。


「やったね!」


 何か手応えを感じたのか、マコトがガッツポーズをしています。マコトの小太刀では、脂肪と筋肉の塊であるオークを切り裂くのは難しいのではと思っていましたがそんな事はなく、戦闘中によく見てみれば、マコトの小太刀に水が纏わり付いているのが見えました。それにより切れ味が増すだけでなく、血や油といった刃の入りを鈍らせる物を刀身に付着させず、骨などの硬い部分に刃を直接当てさせず刃零れさせないことで、常に変わらない切れ味で攻撃を続ける事が出来るようです。


 うーん、なんと言えば良いのでしょうか。アキラが魔法も使う戦士だとすれば、マコトは魔法戦士という感じでしょうか。


 さらに進んでいくと今度はオークが2体いました。


 アキラの魔法の牽制のあと突進し、オーク2体の向こう脛をバールのようなもので全力で叩き、飛び退く。間髪いれずにアキラが接敵し槍で薙ぎ払い、オークの太腿を切り裂くと素早く飛び退く。完全に足が止まったオークに対し、小さな火球が飛んでいき着弾と同時に火は大きくなりオークの全身を火が包みました。少しの間もがいていたオークも火と共に光の粒子となって消えていきます。


 前回手に入れた魔法の発動体のワンドとシズクの魔法の練習の成果もあり、得意の魔法の調整はより洗練され、苦手だった素早い魔法の発動も克服しつつあります。


 ここまで他の人たちに会うことがなかったのですが、4層目の終わり近くで他のパーティを見かけることになりました。次の階層への穴の前で、現在、エリアボスと戦闘中のようで少し待つことになりそうです。


 ファルシオンのような幅広の片刃剣を持ったオークソルジャー2体と、弓矢を持ったオークアーチャー2体との戦闘のようです。


 次の僕達のエリアボスとの戦闘の参考とさせてもらうとしましょう。

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