第47話 探索のない日

 いつも通り6時に起床。安楽座になり、できるだけ細く長く息を吸い、できるだけ細く長く息を吐く、これを10セット。次に1秒で息を吸って吐く、これを10セット。


 水を飲み、顔を洗い、ジャージに着替え近所の公園までジョギング。10分程走ったところにある大きめの公園で30分程体を動かし、同じ道のりをジョギングしながら家路に付く。


 朝のルーティンをこなして帰宅すると、アキラが男物のパジャマのまま腕捲りをして朝食を作ってくれていました。


「おかえり」


「ただいま」


 いつ以来でしょう、家に帰って来た時に「おかえり」と言ってもらえたのは……ジンと温かくなるものを感じながらアキラに声をかけます。


「先に着替えてもらっていいですか?」


 ダボッとした服の胸元とか、スラリと伸びたナマ足とか目のやり場に困ります。


 朝食は、ベーコンエッグを乗せたトーストとシリアルとヨーグルトと野菜ジュースです。


「「いただきます」」


 声を揃えて食前の挨拶をすると、朝食を食べ始めます。


「アキラ、今日はどうしますか?」


「うーん、買い物。モンドは?」


「そうですね、食材なんかの買い出しと、昼から少し顔を出したいところがあるのでそこへ行ってきます」


「どこ?」


 アキラが小首を傾げて尋ねて来ました。


「パルクールの出来るところです。最近、冒険者講習があったので顔を出せてなかったので」


「一緒に行っていい?」


「別に構いませんが、買い物は大丈夫ですか?」


「午前中に終わる」


 昼から一緒に行くことが決まったようです。


 朝食を終え後片付けをするとアキラが先に家を出ました。


「いってきます」


「はい、いってらっしゃい」


 洗濯を開始し、部屋の掃除、ゴミ出しを終えると買い出しに行きます。


 インスタントコーヒーに卵、豆乳、ゴミ袋等々なくなった、またはなくなりそうな食材や日用品を購入し、家に帰ります。


 購入した物を整理し片付けたら、パソコンを起動して最近のニュースを確認します。ニュースサイトを廻っていると洗濯が終わったので服やタオル等を畳みタンスへ仕舞います。


 他にも細々と家事をしていると大荷物を持ったアキラがやって来ました。


「ただいま」


「おかえりなさい、というかその大荷物はどうしました?」


「???」


 そんな不思議そうな顔をされてもこちらが困ります。


「家に戻るのが面倒」


 言葉少なですが、探索のあと等に家に帰るのが面倒だから、うちに泊まれる用意をしておく、というところですかね。こんなのを見たらマコトも用意して持ってきそうですね。パーティ拠点の確保を急ぐ必要がありますね。


「お昼は何が食べたい」


 アキラが荷物を整理しながら聞いてきました。


「そうですね、駅前で何か食べましょうか。アキラは何かありますか?」


「ラーメン」


「いいですね、それにしましょう」


 アキラの荷物の整理を待って、家を出ました。


 とろけるこだわりの叉焼が自慢の九州ラーメンのお店に来ました。お昼時に来てしまいましたが、運よくすぐに座ることができました。僕が叉焼麵とライスのセットを、アキラがトマトスープのラーメンとチーズをのせた替え飯を頼みました。それほど待たされることなく注文したメニューが届き食べ始めます。


 改めてアキラが凄まじいまでの美人なのだと認識させられます。店に入ってから、食事をしている今も僕達に視線が集まっています。アキラの美貌に見とれるものと、なんでこんな奴がという僕へのやっかみの視線が。アキラは視線に慣れているのか完全に無視しています。それでも不快に感じないわけでもないだろうと思い、少しでも視線を遮れるように体をずらします。


「おう、姉ちゃん。こっちに来て酌でもしてくれや」


 昼間から酒盛りをしていた客の男の一人が近寄ってきます。アキラに近付けるわけにもいかないので立ち上がり壁役となります。


「兄ちゃんには用がないんだよ、どけ!!」


 そういって胸倉を掴んできました。肉体労働をしている方なのでしょうか、体格はよく筋肉もしっかりついていますが、ダンジョンのモンスターに比べれば殺気もなく、脅威に感じません。


「女の前だからっていい格好してんじゃねえぞ」


 全く物怖じしない事に業を煮やしたのか男は拳を振り上げました。これはヤバい、そう思った時、男の連れの一人が止めに入ってくれました。


「おい、お前、そこまでにしとけって!お兄ちゃん、迷惑かけた、すまねぇ。彼女さんも悪かったな」


 その男は連れの人には頭が上がらないのか、しぶしぶといった感じで引き上げました。


 危なかった、アキラからの殺気が膨れ上がったときには人死にを出さないためにはどうすればと考えていましたが、今はなぜか頬を赤らめ照れていました。


 その後は何事もなく、食事を終え、お勘定を払い、店の人にお騒がせしたことを詫び、ごちそうさまと一声かけて店を出ました。


 店を出た足でそのまま駅に向かい、電車に乗り、一本乗り換えて大きめの駅で降り、目的のパルクールの施設へと歩きます。


 移動中も様々な視線がありましたが、ラーメン屋のようなトラブルはなく目的地に着きました。


 平日のわりに意外と人がいてびっくりです。受付に行くと顔なじみのおばちゃんがいました。


「あら、馬場さん、お久しぶり。しばらく来なかったけどどうしたの?」


「ああ、高杉さん、お久しぶりです。ちょっと忙しくてなかなか顔を出せませんでした」


 そんな感じで挨拶していると、おばちゃんは後ろにいたアキラに気が付き大声を上げました。


「ああああ、馬場さんが彼女を連れてきたぁぁぁぁ!!」


 その声は施設の中に響き渡った。

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