第40話 忘れ物

 ハァー、疲れました。


 僕は遺跡探索の謎解きがしたいのであって、鬼退治の攻略法の謎解きがしたいわけじゃないんです!


 それにしても今回は人型の鬼のモンスターだったからまだよかったのですが、これが虎や象なんかの獣型のモンスターや、蜘蛛や蟷螂なんかの虫型のモンスターだったら無理だったでしょうね。どうやって投げろっていう話です。近所のじいさんなら問答無用で投げ飛ばしそうですが。


 そんなことより戦利品です。鬼のドロップ品、フフフ、ずっとアレが気になっていたのです。


「魔石がない」


「ホントですね?ドロップ品が多いからですか?」


 マコトとアキラが肩掛けカバンと指輪を拾いながら話しています。マコトとアキラが拾い集めるのを手伝ってくれているので僕も拾うとしましょう。


 最後にスキルオーブを拾うと使うつもりはなかったのですが自然と僕に吸収されてしまいました。いつものスキルです。ああ、なるほど【神々の試練】が終わったので【神々の祝福】となったのですね。


「すみません、スキルオーブを勝手に使ってしまいました」


「モンドさんが倒したんだから問題ないよ」


「大丈夫」


「いえ、皆で倒したものですから…」


 マコトとアキラと話をしていると、いつの間にか目の前に人型をした淡く光る白いもやのようなものがいました。鬼が現れた時と同じように。


 音もなく襲い掛かって来た靄の前にマコトとアキラを庇う様に身を投げ出す。


「モンドさん!」

「モンド!」


 体に力を入れ衝撃に備える……何も起こらない…靄は消えた…?


「どうなりました!?」


 後ろで見ていたであろうマコトとアキラに急いで確認する。


「消えた」


「モンドさんにぶつかったと思ったら消えちゃいました」


「近くに靄は?」


「いない」


「魔法でも探知できません」


 何もなく、いなくなった?鬼の最後の悪あがきか?


 そう思っていると急に体が…


「あああああああ!」


 熱い!体が熱い!体の内側からの灼けるようだ!


「モンドさん!!」

「モンド!!」


 熱は10秒ほどで収まり、体は筋肉が1.5倍にパンプアップし、上半身の服がとある一子相伝の暗殺拳の継承者のように吹き飛んでしまった。


「いったい何があった?」


 そう呟くとマコトとアキラから返事があった。


「モンドさんがぴかーっと光ったと思ったら」


「モストマスキュラーで出てきた」


 聞いてもわかりませんでした。


「モンド、お願いがある」


 アキラが少し頬を赤らめながらお願いしてきました。また、いつも通りからかわれるのかと思いましたが、アキラからのお願いは珍しいので了承しました。


「左手を広げて顔の前に持ってきて、手の甲はこっちに向けて。右手は軽く肘を曲げて、手は広げたままで手首を軽く曲げる。左肩を少し落として、腰は左に傾けながら少し捻る感じで」


 アキラが長くしゃべるのを珍しく思いながら、アキラの言う通りポーズをとります。


「ああ、エエわぁ。モンドの優しい顔と相まって、理想のあの方そっくりや」


「はいはーい、次はボクー。えーと、両手を上げて肘を90度に曲げて頭の後ろでクロスするように、手のひらはパーのままで。顔は左を少し向いて、目線は右を見て。左足を前に出して、右足は爪先立ちで膝を少し曲げる。OK、モンドさんはこっちもありだと思う」


 10分ほど二人に言われるままポージングしていると、気が付いた時には筋肉は元に戻っていました。サイドチェストで力を入れてみましたが、さっきのようにはパンプアップしませんでした。


「さすがにそろそろ戻りましょう」


「ドロップ品はどうしますか?」


「モンドが決めていい」


「えっ、でも僕はすでにスキルオーブを一つ使ってしまいましたし…」


「モンドさんが決めてください!」


 そろそろ帰るとなって、ドロップ品をどうするかを話し合おうとしましたが、マコトとアキラから僕に決めてほしいと言われました。


「それではお言葉に甘えまして、僕はこの肩掛けカバンを貰いますので、指輪はお二人に」


 これは『あのカバン』です。今、被っている帽子と同じくらい欲しかったあの肩掛けカバンです。なんでモンスターのドロップ品にこれがあるのかはわかりませんがあのカバンが手に入りました。ご都合主義万歳。


 マコトには銀と青が入り混じったダマスカス紋様で形は剣腕、内側には梵字が刻まれた指輪を渡し、アキラには銀と黄が入り混じったダマスカス紋様で形は同じ剣腕、内側に同じように梵字が刻まれた指輪を渡しました。


 ドロップ品はマジックアイテムのようで持っていると使い方がなんとなくわかります。僕が貰った肩掛けカバンはお約束のマジックバックで重量を無視して、ある程度の容量が入るカバンですが、カバンの口より大きいものは入りません。マコトとアキラの指輪は魔法の発動体を兼ねた魔力増幅器で、マコトの方が水を、アキラの方が雷をより増幅する物となるそうです。


 マジックバックは偶にダンジョンで見つかると聞きますが、魔法の発動体は初めて聞きます。魔法の発動体があると魔法の効率が良くなり、威力が上がり、消費する魔力が減り、制御がしやすくなるそうです。お話の中の魔法使いの杖のようなものはあるだろうと言われてきましたが、実際にあったとは聞いたことがありません。今回が初めてなのか、それとも見つけたが今まで誰も言わなかったのか。


 うーん、今回のドロップ品のことが知れ渡ったら面倒なことになりそうですね。


「よし、今回の異常個体であろうモンスターは倒したのではなく、命からがら逃げ延びたことにしましょう」


「あー、そうした方がいいですよね」


「賛成」


 そうして僕達はダンジョンから出たのでした。


 翌日、ギルドにて赤メッシュ君が保護されたと伝えられました。


 …………忘れてました。



NAME:馬場 主水


LEVEL:11 → 13


STATUS

 STR:16 → 18

 DEX:18 → 21

 VIT:13 → 15

 AGI:17 → 19

 INT:21 → 23

 MND:25 → 28


SKILL

 【神々の試練】 → 【神々の祝福】 → 【幸運】

 【手力男】(New)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る