悪役令嬢の妹というだけなのに一緒に王都を追放されてしまい地方で住むことになってしまったのだが、そこで素敵な青年伯爵に出会いました

夜炎 伯空

前編

「お主達をこの王国から追い出さねばならなくなった」


 私の名前はシステラ、悪役令嬢の妹である。

 お姉様と私は今、玉座の前で王にひれ伏し、王国からの追放を宣告されていた。


 お姉様が王子の恋路を散々邪魔していたのは知っていたけど、どうして私まで。


 むしろ、私は今までお姉様の悪事をできる限り止めようとしてきたのに。 

 その様子が周りからは一緒に悪事を行っていたように見えたのかもしれない。


「はぁ」


 私は大きく溜息をついた。



 お姉様と私は地方に飛ばされたが、それくらいではお姉様の性格は変わらないらしい。

 お姉様はこの街でも、相変わらず傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞っていた。

 

 周りの環境が田舎になっただけで、令嬢としての生活は維持されているのも、反省しない原因だと私は思っている。


「あ、ヘイラーク伯爵!! いらしてたのですね!!」


 お姉様がヘイラーク伯爵の名を呼ぶと、私の胸は高鳴った。


 地方に飛ばされたことで、城下街で好きだった物も買えなくなり、一時は辛い気持ちになっていたが、そんな気持ちを吹き飛ばしてくれたのが青年伯爵のヘイラークだった。


「はい、少し近くに来たので寄らせてもらいました」


「事前に言っていただければ、もっと素敵な衣装でお迎えしましたのに!!」


「はは、ありがとう」


 ヘイラーク伯爵が苦笑している。


 私が好きになった人は何故か必ずお姉様も好きになってしまい、今まではお姉様とひとくくりにされて私も嫌われてしまうということが続いていた。


 ヘイラーク伯爵のお姉様への印象を見る限り、今回もダメなんだろうな……


 今まで好きな人に告白ができなかっただけでなく、片想いすら続けられずにその関係性は終わってしまっていた。


 いつかお姉様と離れて生活できるようになったら、たとえ振られたとしても。

 せめて好きな人に告白くらいはしてみたい。


「システラは元気に過ごされていますか?」


「あ、はい、お陰様で元気に過ごさせていただいております」


「そうですか、それは良かったです」


 正直、お姉様と一緒にいると辛い思いをしてばかりだが。


 何故か、ヘイラーク伯爵の微笑みを見ると、その辛さが一瞬で吹き飛んでしまう。


 今までの恋とは、何かが違う。

 私はそう感じていた。


 ヘイラーク伯爵と私が話をしていると、あからさまに嫌そうな顔をしている人が、すぐ横にいるのは気になるけど。


 ◇


「どうして、私はこんなにもシステラのことが気になるのだろうか」


 システラと話をしていると、何故か心の奥で通じ合っているような、そんな気持ちになる。


「それにしても、システラお嬢様もかわいそうよね。姉妹だからという理由で、姉の悪事と一緒にされて王国から追放されるなんて」


 姉の悪事で一緒に追放?


 庭園で、システラの侍女が庭師と話をしているのを、たまたま聞いてしまった。


「すまないが、その話をもう少し詳しく教えていただけませんか?」 


「へ、ヘイラーク伯爵様?!」


 突然、私に声をかけられて、侍女は驚いていた。



「なるほど」


 姉が王国から追放された理由は何となく想像がついていたが、システラが王国から追放された理由がどうしても分からなかった。

 

 姉の悪事と一緒にされて追放か。


 私の父親は早くして亡くなったのだが、悪名高い伯爵だった。

 そのこともあって、若くして伯爵についた私の道は簡単な道のりではなかった。


 領民に、父親とは違う伯爵だということを分かってもらうためには相当な時間が必要だった。 


 最近になって、ようやく領民と良好な関係が築けるようになったからな。

 

 そこに至るまでのことを思い出すと、込み上げてくるものがある。


「それにしても、システラと通じ合っている感じがしていたのは、そういうことだったのか」


 目上の家族でずっと苦労してきた。

 それが、システラと私の共通点。


 そのことを知ったことで、私のシステラへの想いは今まで以上に膨れ上がっていった。

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