第59話 未来への希望
ある日、丸の内にある日本外国特派員協会の会見場で、司会進行役の真千子がマイクを手に取った。
「お時間となりましたので、これより元公益財団法人イカロスの施術者でありました淳史による、記者会見を開かせていただきます。それではお願いします」
会場正面の中央に座る淳史は、真千子からの視線を受け取ると、マイクに向かってゆっくりと話し始めた。
「まず初めに、私が3年前に突然姿を消した時、タッチする予定だった方々とそのご家族へ、実施できなかったことへの謝罪を申し上げます。真に申し訳ございませんでした。もしも、まだご存命でございましたら、すぐにでも伺ってタッチさせていただきます。
私が突然いなくなった理由は、海外のテロ組織によって拉致されたためです。そこでは劣悪な環境で意に反するタッチを繰り返し強制される生活を送っておりました。
それから3年の月日がたった時、救出されました。この時ご尽力いただいた、日本政府と関係者の皆様には大変感謝しております。
そしてこれから、私はイカロスを復活させ、テロや戦争をなくすため、飢えを無くし医療と教育を充実させ研究を発展させるため、全てを加速させます。今までは1日一人の患者しかタッチできませんでしたが、私が意図せず進化することとなったため、今後は一日30人の患者に対しタッチを行います。そして、抽選枠を週1日のみにして、残り週5日は、有料の特別枠として、AIを使った価格変動制として最大の利益を得るようにいたします。
これにより、世界の富の再分配を目指し、欲望の資本主義を終わらせます。具体的には、無償医療の提供、医療福祉の人材育成、医療研究所の建設、AI研究による医療の発展、無償教育の提供、ドラッグ根絶、貧困世帯の救済、全て実施します。
また、殺人ウィルスによるパンデミックに備えてワクチン研究開発製造施設の建設、マスクや医療機器の大量生産をし、大量在庫保有をいたします。
最後に、もし隣の人が傷ついていたのなら、痛がっているところに手を当てて声を掛けてあげてください。たとえ私と同じ能力が無くても、それは意味のあることだから。
小説の中の『ある日』みたいな奇跡はいつだって起こりうる事なんです。どうか毎日を大切に生きてください。以上です。」
会見が終わると、中継を見ていた内閣総理大臣の鶴子から真千子の元に連絡があった。内容は、淳史の立ち上げるイカロスに、独立行政法人の格を与えるというものであった。
銀杏並木の歩道を歩いて帰る淳史親子と真千子と隆史とイーリヤ。
真千子が淳史に、「これから忙しくなるわね。何から始めるの?」と聞くと、
「アーリヤという女性の葬儀をあげて弔わせてほしい。お墓を建立して彼女の死とも向き合って生きていきたい。それからもう一つあるんけど、、、」
「何よ、もったいぶってないで教えなさいよ。」
「ねーちゃんと隆史さん、二人の顔がプリントされたカステラを食べられたら最高なんだけどな。」
それを聞いていた真千子は、驚いた様子で隆史と目を合わせ、照れくさそうな顔で笑い合った。
今まで言いたくても言えなかったことを言えてスッキリした淳史は、ミライを抱えてノゾミの元へと会いに行くのであった。
おわり
雲上タッチ 団田図 @dandenzu
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