第57話 再会と再生と再始動
ある日、淳史は羽田空港に到着した。実に3年ぶりの日本への帰国であった。
隆史の案内で、空港内に借りた一室に通された淳史は、誘拐されたあの日の事故で両足を失い、車いすに乗った真千子と再会した。淳史は、真千子の両足がないことに気付くと、手を差し出して握手を求め、「ただいま」と言った。真千子は「お帰り」と言い、手を差し出して握手をした。真千子は数秒の握手でそろそろと思い、手を引こうとするも、淳史は握った手を離さなかった。淳史はそのまま目を閉じて下を向いた。
「探し出してくれてありがとう。これからは僕がねーちゃんを守るよ」
そう言うと、タッチを行った。真千子は淳史の手から伝わる温かい何かが全身に広がり、両足へ集中していくのを感じると、失ったはずの足が浮かび上がってきた。
淳史は手を握ったまま「身長変わってないかな。立ってみて」と言って真千子を車いすから立たせようとエスコートした。真千子は驚きと喜びで言葉が出ず、言われた通り立ち上がると、横にいた隆史が「間違いない。真千子の身長だ」と目に涙を浮かべて笑顔で言った。
数秒して、冷静に戻った真千子は「自分へのタッチは何があってもするなと以前言ったはずだ」と言おうとするが、淳史は遮るように「僕の意思だよ」と強い主張をした。そして淳史は続けて言った。
「イカロスを復活させるよ。目の前の人を助けずに、遠くの人は助けられない。ねーちゃんがいなきゃ、何もできない。でも次は僕が表に立つから」
真千子は、別人のような強い意志と決意と新しい力を持つ淳史を目の当たりにして、想像を超えるほどの過酷な日々を過ごし、成長してきたと察し、「とうとう雲の上から降りてきたのね」と言い、それを受け入れた。
さらに続けて淳史は「ただ、その前にどうしても助けたい人が中東にいるから隆史さんに手伝ってほしい」と言った。何かを察した隆史は何も言わずに部屋を出ていった。すると隆史が部屋へ戻ってくると、彼の後ろに幼女を抱えた少女がいた。
淳史の目の前に娘のミライと彼女を守ってくれたイーリヤが現れた。二人と離れてから1年が経っていた。毎日考えて、帰国しても顔がこわばり続けていた淳史の緊張が一気にほどけて、涙を流して二人を抱きかかえた。
隆史は、中東シンガラテ共和国へ淳史救出に向かったが一歩遅かったこと、その直後、淳史のドックタグを持った二人が現れて、日本へ連れて帰ってきたことを伝えた。
淳史は、ただただうなづき続け、言葉にならない感謝を表現しながら再会を喜んだ。
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