第56話 窮地に一生
囚われのある日、ダニーが淳史の宿舎にやってきて「いいことを思いついた」と、言いながら、にやけ顔で近寄ってきた。
先日、ダニーへの欠損部再生タッチで臓器を治してもらったことをいいことに、臓器売買をしようと持ち掛けてきた。ドナーは、以前にカルテルの金を持ち去ろうとした裏切り者を拘束しているから、そいつを使うと言ってきた。
「取り出して再生。取り出して再生。取り出して再生」
ジェスチャー付きで説明して見せた。「これでわざわざ淳史の元に来なくても、お取り寄せのように疑似タッチができて、さらに儲けが膨らむぜ」と、随分乗り気だ。しかし淳史は、こればっかりはやりすぎで、やりたくないと思っていた。
淳史は何とか避けて通る方法はないかと考えはじめたそのとき。
「ドカーーーン!!!」
強い閃光と鼓膜が破けるほどの衝撃音が鳴り、あたり一面催涙ガスの煙で包まれ、その場にいた全員がうずくまり、目をつむった。
キーンと響く耳鳴りの先に誰かが話しかけてくる。
「・・・クン!淳史君無事か!」
聞き覚えのある日本語の声に、目をつむっていてもそれが隆史だと分かった。助けに来てくれたうれしさで口角が上がり、催涙ガスの効果とは違う笑いと涙がこみ上げてくる淳史。
隆史は安全な隣の部屋まで淳史の腕を掴んで誘導し、淳史の目が回復するのを待った。淳史が目を開くと、完全武装した隆史と、見方であろう4人の隊員が優しく微笑んでくれた。淳史はヘルメットと防弾チョッキを着せられ、脱出計画を聞いた。しかし、隆史が想定した以上に敵の警備人数が多かったため、部屋を出たとたんに銃でハチの巣にされると言って、ほかの手はないかと仲間の隊員に意見を求めた。すると淳史が「救出に来てくれた5人が自分を中心に外側を向いて囲ってくれれば、もし撃たれても、すぐに後ろからタッチして回復させながら逃げることができる」と言った。隆史は淳史の提案をすぐに採用した。
6人で息を整え直し、隆史の合図で部屋の扉を開けて外に出ると、案の定激しい銃撃が隆史たちを襲った。応戦するも、味方が被弾して膝が落ちた。その瞬間、淳史がタッチして立て直した。それを何度か繰り返しながら敷地の外へ出て、待機していたヘリコプターに乗り込み、その場を命からがら逃げ切った。
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