第50話 パンデミック前夜

 囚われのある日、一人の男性が密閉されたカプセルの中に横たわった姿で運び込まれてきた。彼は危険なウィルスに感染していて、あと数日で絶命する可能性があるという。


 話を聞くと、彼の務めるアメリカの巨大軍事会社の兵器開発部門生物化学兵器グループでは、殺人ウィルスを製造していて、研究の途中、誤ってウィルスを吸い込んでしまったとのことだ。殺傷能力のある生物ウィルスは、コンピューターウィルスのように簡単にデザインでき、出来上がったウィルスをドローンに積むと、秘密裏に暗殺できる兵器となるという。


 連れられてきた患者は、体内に入ったウィルスを免疫細胞が過剰に攻撃する免疫暴走のサイトカインストームになっていた。感染力は低いから安心しろと言われたが、淳史は患者が入るカプセルへ、恐る恐る手を入れてタッチをした。すると患者は回復し、何も語らず帰っていった。


 ワクチンや特効薬のないウィルスを作成することは超低速で核融合反応が起き、ゆっくりと人々を殺していく核爆弾を作成しているに等しいことと思い、恐ろしいことだと感じる淳史であった。もし感染力が高くなるようにデザインされたウィルスがばら撒かれたら、パンデミックにより世界中でパニックになる。淳史は今までの経験から、人間の欲望と好奇心の底はなく、人道的でないことでさえ想像したことは大体現実になるとわかっていた。そのせいか、未来の地球に起こるであろう悲劇を受け止められず、今回の患者である、研究者による開発が、何らかによる継続断念を願うしかなかった。

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