第44話 ペットコアラのマーク

 囚われのある日、ペットの調子が悪いから見てほしいというダンディーな男が現れた。彼はイタリア系マフィアのボスだと言い、全身の毛が真っ白なコアラを連れてきた。名前はマークと付けていた。


 アルビノ種であるだけでも珍しいのに、さらには目の色がブルーとイエローのオッドアイで、さらに希少度が高いという。そもそもコアラはオーストラリア政府が商取引を禁止しているためペットにはできないはず。おそらく裏取引で手に入れたのだろうと淳史は思っていた。上等なユーカリの葉を餌にあげていたが、食欲がなくなり獣医に見せたが原因不明と言われたそうだ。


 淳史は、動物園に通っていたころ文世から、コアラはストレスに弱く、環境音や室温の変化で体調を崩す非常に飼育が難しい動物だということを聞いたことがあった。


 タッチをしてみたが手ごたえは無い。やはりストレスが原因のようだ。そのことを男に伝えると「もしこのまま死んだら新しいコアラを買うよ」と言った。


 動物への愛情は一切なく、ファッション感覚で持ち歩いているようであった。淳史は、全ての動物に敬意を払い、言葉は通じなくとも絆を作る文世とは真逆であると感じていた。希少かつ特別であるがゆえに、自分の意志に反して周りに翻弄されるコアラを見て、まさに自分を映し出す鏡のようだとコアラの行く末を案ずる淳史であった。

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