第38話 クレーン作戦
淳史が消えてから2年が経ったある日、あの日の事故で両足を失い、車いす生活を送る真千子と、それを支える隆史は首相官邸総理執務室へ招へいされていた。
淳史のいなくなった公益財団法人イカロスは解散し閉鎖され、そこで働いていた人たちは別の仕事についてバラバラとなっていたが、真千子と隆史は今も淳史を探し続けていた。真千子の秘書をしていた正則は、鶴子の秘書に復職していて彼女を支えると同時に、淳史の行方の手がかりを探してくれていた。
そんな時、先日行われた与党である民自新党の総裁選で鶴子が当選し、日本初の女性総理となり、真千子と隆史は首相官邸にいる鶴子に呼ばれたのであった。
鶴子もまた、アメリカの助けを借りて淳史を探していた。偵察衛星や諜報員の情報から淳史は今、中東シンガラテ共和国にいて、反政府勢力の武装組織カスタネンに囚われているとわかった。しかし、囚われた邦人を助けるために武装した自衛官や警察官が海外で活動するには自衛隊法と警察官職務執行法を改正しなければならないため、多くの時間と労力を要する。そこで鶴子は異例中の異例として淳史救出の内閣官房令を発布し、それを特定秘密に位置づけ、国会の承認を得ずに実施することとした。作戦名は鶴子の鶴を取って『クレーン作戦』と名付けられた。
早速、鶴子は陸上自衛隊空挺レンジャーと警視庁特殊急襲部隊SATの精鋭を集めた合同チームを編成し、リーダーとして、以前SATに所属して、歴代最高の訓練スコアをたたき出していた隆史に受けてくれないかと打診してきた。鶴子はその任務を引き受けてくれるかと聞くと、隆史は迷うことなく了承した。その日から隆史らのチームは、完全封鎖した東富士演習場へ滞留し、極秘訓練連が開始された。
数日間の訓練で、隆史は感覚を取り戻し、チームもまとまり始めたころ、出動命令が下った。
自衛隊の輸送機で目的地付近の空港まで行き、そこからヘリコプターに乗った。敵のアジト付近にパラシュートで降下し、徒歩で目的地へ進行する隆史と隊員。隆史の体にはボディカメラが取り付けられ、その映像は衛星通信を介して日本に送られている。日本の作戦本部からリアルタイムでモニターを見つめる鶴子内閣総理大臣、統合幕僚長、警視総監、国家公安委員長、官房長官、外務大臣、それに真千子。
隆史の部隊はテロリストの厳重な警備を、激しい銃撃で鎮圧していった。アジトの中へ入り、全ての部屋を制圧したが、淳史の姿は確認できなかった。拿捕した武装組織カスタネンの戦闘員に銃を突きつけ淳史の所在を聞くと、つい先日に別の犯罪組織によって中南米へさらわれたと聞かされた。クレーン作戦は失敗に終わり、一同は肩を落とした。
一足遅く、淳史を助けられずに、落胆してアジトを去ろうとする隆史に、銀色に光る何かを持った少女と幼女が近寄ってきた。
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