第37話 顔バレの代償
ニュース番組やSNSによって淳史の顔が世間に広まってしまった動物園デートの翌日、真千子はいつもより早く家を出た。出勤中の車の中で警視庁へ電話をし、淳史への警備を今すぐ増やすよう要請するも、急なシフト変更は難しいため、明日からだと言われた。電話を切るとすぐに、見慣れない番号からのテレビ電話がかかってきた。出ると相手は国交大臣の鶴子からだった。淳史の心配をしてくれているのかと思ったが違った。
内容は、中東産油国の大物をタッチしてほしいとの依頼だった。真千子はなぜかと聞くと、日本のエネルギー政策にとって重要な人物で、恩を売っておきたいと言う鶴子。真千子は、鶴子の会話の反応が遅く、違和感を覚えたが世話になっている鶴子の依頼を
朝一番で今すぐ向かってほしいとのことだったので、淳史に電話で指定してきたホテルへ向かうよう連絡し、自分も向かった。この時、淳史の警護をしていたSP裕貴への連絡は無く、急な車の割り込みにより、淳史を見失ったため、SP裕貴は財団で帰りを待つこととした。
真千子と淳史がホテルの一室へ到着し、タッチを行った。鶴子が言っていた大物は足の骨折だった。この時真千子は、大したことはないケガへのタッチに違和感を覚えていた。
ホテルから財団へ出勤する際、真千子は淳史に、同じ所へ向かうならと、自分の車へ乗るよう誘った。車中、真千子は鶴子の携帯へタッチ終了の報告電話をすると、鶴子は何のことか分からないと言ってきた。真千子はハッとし、朝に会話した鶴子とのテレビ電話はディープフェイクであったと気づいたまさにその時、大きな爆発音とともに車が横転した。すると、後ろから付けていた10数台の二人乗りバイクが、逆さになった車を取り囲んだ。フルフェイスのヘルメットを着けた20数人がバイクから降りて横転した車に近づき後部ドアをこじ開けた。すると、気を失っていた淳史を車の中から引きずり出し、フルフェイスのヘルメットを被せ、バイクの後部座席に座らせると、ライダーと淳史をロープで固定した。その後10数台のバイクは横転した車の周りをグルグルと回り、少しすると散り散りにその場から走り去っていった。真千子は全身を強く打ち、意識がもうろうとしていた。
そのころ、まだ淳史の誘拐事件を知らないノゾミは、動物園での出来事が頭から離れず、心の整理がつかないまま調整部のデスクに座り、淳史の出勤を待っていた。
気を失っていた淳史が眼を覚ますと、硬くて狭いベッドの上にいた。手には手錠をされている。大きく体が揺れていることに気付き、小さな窓の外を見てみると海が見えた。どうやら囚われの身となり、船で移動中のようだと気付いたのであった。
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