第35話 国会証人喚問
ある日、肺がんステージ4患者が特別枠タッチを落札した。資金は多額に掛けられたガン保険からとのことだった。
イカロス調査部の光男は【不審な点は無し】として、調査結果を審査部へ提出した。その後、審査も通り早速タッチが行われ、患者は回復した。
タッチから数日後、国交大臣の鶴子から真千子に直接電話が掛かってきた。
「以前お宅がタッチした肺がん患者。あれはちょっとあれねー」
歯切れの悪い、はっきりとしない言い方に、真千子は困惑した。
どうやら鶴子は、イカロスが内閣府に提出しているタッチ授受者を毎回チェックしていて、何か引っかかったようだ。真千子は、鶴子の言うことだから何か意味があるだろうと思い、調査部の中でも一番に信用している隆史へ、内密で調べ直してもらうようお願いをした。
数日後、再調査結果を見た真千子は愕然とした。内容はこうだ。
タッチ前、患者は悪名高い製薬会社の肺がん新薬の治験に参加していた。その際、治験に失敗して、ガンが治るどころか悪化し、さらに重篤な別の疾患をも引き起こしていたのであった。そして、何とかその事実を隠そうと画策した製薬会社は、患者にタッチを受けさせて、この事実を無かったことにしようとしたのであった。そのため、特別枠タッチのためのお金は、保険金と偽って製薬会社が用意したものであった。そして、厚労省へ提出する治験の結果報告で、その患者は隠され、失敗をなかったことにしていたのであった。また、製薬会社は新薬認可が下りやすくなるよう、厚労省の官僚に多額の金銭を支払っているようだが確証はないという調査内容であった。
真千子は「なぜ調査部の光男は嘘の調査結果を提出したのか」と隆史に問うと、「わからないが光男先輩の件は任せてほしい」と隆史は言った。
イカロスは社会貢献として、別の信用できる製薬会社に多額の研究開発資金を助成していたが、ちょうど今回の悪徳製薬会社と新薬で競合していたのであった。さらに、こちらの新薬は全ての数値で良好な結果が出ているにも関わらず、なかなか認可が下りなく、真千子はイライラしていた。そこえきて今回の治験のデータ改ざんに加え贈収賄疑惑に真千子の堪忍袋の緒が切れた。
単身、厚労省へ乗り込み、担当官僚に文句を言うも、証拠がないと相手にされず追い返されてしまった。
数日後、コケにされた厚労省官僚は様々な因縁をつけ、真千子を国会の証人喚問に呼ぶように仕向けた。そこで財団の解体と全国の医療機関への出入り禁止を提案され、途方にくれる真千子であった。
そのころ光男は嘘の調査結果を提出してすぐ、依願退職して実家の木更津市に帰っていた。そこへ調査部の隆史が現れた。光男は、隆史が警視庁捜査一課に所属していたころからの先輩で、財団設立時に隆史がお願いして一緒に転職してきた信用できる仲間だった。隆史は光男の今現在の事情を調査したら、彼の弟が重い病気にかかり、高額の治療費が必要だったことが分かった。ちなみに、財団の職務規定で職員及びその親族はタッチを受けることは許されていない。そのため、光男は財団に対して嘘の調査結果を書き、患者がタッチを受けられるようにすることで、製薬会社から多額の報酬を受け取って、弟の治療を行っていたのであった。
隆史は信用して信頼していた光男先輩に失望するも、弟さんの病気に同情もしていたため、強く責めることは出来なかった。ただ、今回は光男の不正を暴きに来たわけではない隆史は、光男が優秀な調査員であったことを知っていたため、製薬会社の不正や贈収賄の証拠を握っているものだと確信していた。隆史は光男の行動を財団では問題にしないことと、弟の病気治療の支援を約束に、製薬会社の不正データをもらえないかと説得すると、光男は承諾し、証拠のそれらを提出してくれた。
国会の証人喚問で休憩中の真千子に、隆史から電話が来た。官僚と製薬会社が不正に関与した証拠であるデータと、肺がん患者の血液アンプルを手に入れたことを伝えられるも、アクアラインが事故で通行できないことも伝えられた。これでは証人喚問中に間に合わず、全てが終わると、うなだれる真千子に隆史が「近くに国交大臣の鶴子はいないか」と尋ねてきた。たまたま通りかかった鶴子に電話へ出てもらった。隆史は鶴子に、「車に積んでいるドローンで、木更津から東京湾を含む、国会議事堂までの空路を通過させてもらえないでしょうか」とお願いすると、鶴子は「今は規制が厳しいの知ってて言ってるの?」と愚痴を言うも、しぶしぶ許可をした。
証人喚問で窮地に陥った真千子であったが、隆史からの証拠が間に合い、全ての不正を白日の下にさらすと、事態は一転し、財団の存続は決まった。
国会議事堂を出ると、鶴子が真千子に話しかけてきた
「いずれ淳史君はこの世界のルールを変えてしまうほどの存在になると私は思っているの。でもそれには彼の決意と自覚が必要だけど、まだそれは伺えないわ。それまでは私たちで守ってあげましょう」
そう言って鶴子は去っていった。
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