第33話 ミラクルタッチ

 ある日、淳史と真千子と隆史はアメリカのニューヨーク州に来ていた。ここへ来た理由は、原因不明の体調不良が続いていた大富豪が、特別枠タッチを落札したためだった。


 淳史は大富豪と会い、原因不明では治せるか分からないと前置きをしてから、彼の手を取って挑戦してみた。すると大富豪はみるみる顔色が良くなっていき、体調も良くなったといい、どうやら成功したようだ。

 実は、体調不良の原因は、長男が、早く遺産が欲しいと、密かに新開発させた毒薬を、毎日少しずつ父親に盛っていたことによるものであった。


 タッチの瞬間に同席していた長男は、淳史に対して余計なことをされたと恨み、また来られたら困ると考え、父親の前にまずは淳史から殺してやろうと企てた。


 淳史が帰りのチャーター機に乗り込もうとすると、長男が近寄ってきて話しかけてきた。


「お土産を荷室に入れておいたよ」


 不敵な笑みでそう話してきた彼に、淳史は不審に思ったが、一言お礼を言ってその場を去った。


 飛行機が離陸して間もなく、真千子が空港で買ったハンバーガーをつまみに一杯はじめた。真千子は同乗していた隆史にも半分すすめるが、「ハンバーガーでお酒を飲めるのは理事長だけだよ」と言いながら笑うと、真千子は顔を引きつらせながら愛想笑いをして隆史を睨んだ。


 間もなくすると突然、荷室が爆発して飛行困難となり、搭乗していた機長・副機長・淳史・真千子・隆史の5人は窮地に立たされることとなった。


 機内には非常用の二人用パラシュートが2組しかない。隆史は周りの人に考える間を与えず、自分が残ると言い、4人にパラシュートを装着させ、降下させた。


 無事地上に着地できた真千子は、どうにか隆史を助ける方法はないかと頭をフル回転させて考えた。すると、真千子は隆史に電話を掛けた。操縦が効かず、海に向かって落ちていく飛行機の中で、隆史は真千子からの電話に出た。


「飛行機の中で電話に出たら怒られるんだけど今はいいよね。最後に君の声が聞けてうれしいよ」


 真千子は隆史の話を遮るように話した。


「ちょっと何言ってるのよ!いい、よく聞いて。そこから飛び降りて淳史の位置に落ちて来れる?着地と同時に淳史にタッチされれば助かる可能性があるわよ」


 あと数分で飛行機は海に墜落すると判断した隆史は他に手はないと、パラシュートを持たずに飛行機から飛び降りた。高速で落下する隆史は、淳史が着地した地点を見つけて、そこへ体を寄せる。地上まで10メートルとなった時、隆史は手を伸ばして、地上で待つ淳史の延ばした手に触れることができた。

 隆史は地面に叩きつけられるも、その瞬間、淳史のタッチが成功し、隆史は助かった。高所から手ぶらで落ちたにもかかわらず、今自分が生きていることが信じられないといった様子だった隆史は、一息ついて我に返り


「あやうくミンチになるところだった」と言うと、


 真千子が「あなたをバンズで挟んでもおいしくなさそうね」と言い、淳史と3人で笑った。


 その後、飛行機へ爆発物を積み込む長男が監視カメラに写っていたことから逮捕され、重罪として一生刑務所暮らしとなるのであった。

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