第28話 名乗り出る何か
ある日、羽田-富山フライトの機内最前列に、窓側から真千子、淳史、ノゾミの順で席に座っていた。
急遽決まった抽選枠タッチのため、ノゾミが現地で細かい調整をすることとなった。淳史も表向きは調整員として向かっているが、タッチ直前でノゾミの前から姿を消してタッチする予定だ。
淳史は、隣に座ったノゾミとの雑談を楽しもうとするも、逆隣の真千子が気になって会話が弾まない。
離陸後まもなく機内に急患が出たようでCAが、医師はいないかと機内放送で呼び掛けはじめた。医師免許を持つノゾミは周りの様子をうかがうことなく手を挙げて名乗り出た。淳史もついて行こうとすると、大勢の人の前でタッチをしてしまわないかと心配した真千子が淳史の腕を掴んだ。真千子はギリギリまで待つよう指示すると、淳史はわかっていると腕を振りほどいてノゾミの後を追った。
患者は
処置を終えて、座席へ戻るノゾミに、乗り合わせた他の乗客から拍手が沸き起こった。照れくさそうにするノゾミを見て、淳史は彼女に対する好意がさらに増し、1時間という短くて濃いフライトは淳史の恋を加速させた。
その後、ノゾミの現地調整がうまくいき、無事タッチが終了した。
帰りは新幹線で、窓側からノゾミ、真千子、淳史の順で座っていた。揺れる車内でノゾミは真千子に向かってつぶやいた。
「雲上さんも名乗り出て称賛を浴びたらいいのに」
ノゾミは独り言のつもりでなにげなく言ったのだったが、ますのすしを肴に日本酒を飲んでいた真千子が反応して、一呼吸おいて話し始めた。
「誘拐されたり襲撃されたりするリスクを無くすためでもあるけど、突然降って舞い降りた力に対して、彼本人の強い意志と覚悟が作られれば私もそれがいいと思うわ」
それを聞いていた淳史は自分の手のひらを見つめながら、力の意味と自分の立場を深く考え直そうと思うのであった。
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