第14話 覆水盆に返らす女
ある日、道が渋滞していて現場到着が遅れそうになった真千子であったが、ギリギリ間に合って安堵した。
数日前、タッチ抽選枠での当選を通知された、半身不随の
晶子が半身不随となった原因は、2年前に公園の遊具で遊んでいると、金具が外れて高いところから体を地面に叩きつけられたことによる事故であった。遊具が壊れた原因は長年点検をせず、ずさんな管理によるもので、市が契約している保険会社からは口止め料も含めた多額の保険金が晶子の親に支払われた。
晶子の書き込みからしばらくすると、保険会社から保険金の返還請求が来た。内容は、中学生の逸失利益の計算は18歳からの仮定だったので、ほぼ全ての保険金の返金を求められたのだ。
晶子の車いす生活のために家を改装したり、介護費用として支払った額を差し引くと大きくマイナスとなり、とても返せる額ではなかった。
それを知った晶子は、SNSへの書き込みを後悔して、親に負担をかけまいと、タッチはいらないと言い出した。両親は、お金は頑張って何とかするからタッチを受けてと説得すると、晶子は重い気持ちのまま受け入れた。
タッチ当日。晶子の不安そうな顔から何かを感じた淳史はタッチする前に、不安なことがあれば話してほしいと言うと、晶子は保険金の件を恐る恐る話始めた。
その場にいて一緒に話を聞いていた真千子は、イカロス法務部に所属するかおりへ電話して相談すると、「5分だけ待って」といわれ、電話を切られた。
5分すると、晶子の家に保険会社から電話がかかってきた。内容は、返還請求は間違えで、タッチが行われても、今後請求することはないと、平謝りであった。
なぜ態度を変えてきたのか分からなかったが、その場にいた全員が安堵し、無事タッチが終わり、喜ぶ晶子と両親であった。
その夜、真千子は法務部のかおりを小料理屋に誘った。トウモロコシの髭の天ぷらをつまみに日本酒を飲みながら、かおりに「たった5分で何をしたの?」と聞いた。
「そんなの簡単よ、保険会社へ電話して、晶子ちゃんへの返還請求を続けるなら、市と保険会社を相手取り裁判を起こすしかない。裁判になれば国土交通省が作成した都市公園における遊具の安全確保に関する指針を完全に無視していたことや、口止め料として上乗せされた保険金の話もさせていただく。多くのフォロワーをもつ晶子ちゃんがSNSにあげたら、さらに注目度も上がることでしょう。そうなれば金融庁からは保険金不払いとして行政処分もあることでしょう。今、おたくが返還請求している金額の5倍は支払うことになることでしょう。他にもいくつか誠実に話し合いをしたらすんなり聞いてくれたわよ」
そう言って余裕の笑みを浮かべるかおりを見て、仲間でよかったと、今日一番の安堵の表情を浮かべる真千子であった。
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