第13話 ダダ洩れ警護心情

 ある日、警視庁警備部警護課警護第4係に所属する巡査部長の裕貴ゆうき28歳は考えていた。


(しっかし今日の朝礼時も、課長で警部の亮太りょうたさんは怖かったぜ。いっつも怖い顔で厳正な職務の遂行を成しげろ!って言ってっけど今日はマジ気合がすごかった。


 それにしても若干28歳にして自分もヤキが回ったぜ。苦労して柔道剣道の有段者になって苦手だった英語も話せるようになって憧れだったSPになれたのに、民間人としては唯一の警護対象者となった人物を警護しろと言われたのはいいものの、秘密裏に一人で警護しろだなんて上は何考えてんだか。チーム行動が鉄則の警護を一人でするなんて明らかになめてるよ。ましてや警護対象者と距離を取って、話しかけたりの接触もするななんて本当ありえない。まるで尾行しているようだぜ。どうせ政治家からの圧力で無理やり頼まれたのを、俺が貧乏くじ引いたってわけだろうな。


 とはいうものの、警察官として上官の命令は絶対。SPにとって失敗という言葉はない。自分のキャリアのためにもここは無難にこなして、いずれは国務大臣なんか国家の要人を守れるよう今は試練だと思ってやっていこう。


 そもそもマル対の触っただけでどんな病気も治す能力なんて、俺は信じてないからね。見た目もパッとしないし。本当は詐欺なんじゃないの?おや?マル対と親しげに話しているのは誰だ?脅威か?いやどこかで見たことある顔だぞ。指名手配犯でもなさそうだし。ん?もしかして。た、隆史さんだ!どうしてだ!警視庁きっての切れ者でSATから移動となったときに、あまりに優秀すぎてエリートしか集まらない捜査一課と公安部で取り合いが起こった伝説の人だ!。4年前に一度見かけただけだけど、あれは間違いなく自分が唯一憧れていた人だ。そんな人がなんでパッとしないマル対と話しているんだ?隆史さんは退職したと聞いていたけど。まさか日本でも数例しかない潜入捜査?治す治す詐欺集団解体の潜入捜査なのか?やばい!気づかれた。俺に近づいてきた。どうしよう)


「お疲れ様。君、SPだよね?そのピンバッヂで分かった。俺ここの財団で働いてる元警視庁にいた隆史って言います。警護課ってことは亮チンは元気してる?あいつ同期なんだよね。相変わらず暑苦しい?よろしくいっといてよ。それから、まだ世間の目は厳しいけど、淳史君はいずれ世界を救う男になると思って俺はここで尽くしているんだ。これからもよろしくね。」


「りょりょりょ了解しましたーーー!!」


(伝説の隆史さんに話しかけられちまったぜ。しかも期待もされたし、潜入捜査でもなさそうだな。怖い課長の亮太さんのことを亮チンとあだ名で呼んでいたし。どうやら自分はまだまだ狭い視野でしか物事を見えてなかったみたで、初心を忘れていたぜ。今は全力で目の前の任務に取り組むのみ!。


 ごみ箱クリア!車の下クリア!ビルの隙間クリア!マル対は絶対俺が守る!!)

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