七、至福
「クラちゃんやばいお願い事していい?笑笑」
私はこの現状から目を背け、いつものように明るくkurahaに話しかけた。するとkurahaからの予想外の反応に私は驚いた。
「いいよ!」
すぐに返信が来た。kurahaの即答に少し戸惑った。ダメ元で言ったので予想外の言葉だった。
「え、ほんとに?やばいお願い事だよ?」
私はkurahaのあまりにも軽く答える素振りに驚いて聞き返した。
「どんなお願い?」
kurahaが内容について聞いてきたので私はついに話す決心をした。
「家に泊めてほしいんだ」
言ってしまった。恐らく無理だと断られるのがオチだろう。私はドキドキしながら返信を待った。
「大丈夫!多分大丈夫!多分!」
kurahaは内容を話しても大丈夫だと答えた。
「え、ほんとに?」
私はやはりkurahaがあまりにも簡単に大丈夫だと言うので未だに信じられなかった。
「うん。でも一つだけ。確認がある。」
さっきとは違って真面目な雰囲気だった。
「私の人生を壊してしまう可能性がある。その覚悟はあるかい?」
kurahaの人生を壊してしまう可能性…怖かった。しかし、何の覚悟も無しに家出をしてきたのでは無い。私は現状を変える為に家出をしてきた。このままの状態が続くといつかお金が尽きて寒い中、死んでしまうだろう。死にたくなかった。戦いたかった。ただの自己中心的な考えだが、kurahaの人生を壊してしまう恐怖よりも先に死んでしまいそうな状況から抜け出したかっただけかもしれない。助けてもらいたかった。この状況から。
「大丈夫。出来てるよ。」
私は複雑な感情を抱きながら今の状況と戦う覚悟を決めた。しかし、私はこの時、この質問がどういう事を意味しているのか分からなかったのかもしれない。
kurahaに家出した経緯を軽く話しながら、今後の計画を立てた。まずはいつ行くのかを話し合った結果kuraha通っている学校の終業式が明後日の二十三日という事なのでその日にする事にした。また、kurahaが住んでいる場所は北海道なので飛行機のチケットを取る必要がある。kurahaにどの飛行機のチケットを取ったら良いのか聞いた。
「女満別空港だよ」
聞いた事がない名前の空港だった。どうやら女満別空港からバスで北見に行くようだった。とりあえず北見バスターミナルに待ち合わせにした。kurahaとは初めて会う。楽しみな気持ちでいっぱいだった。初めてこの家出に希望の光が照らされた。しかし、家族旅行で沖縄に行った時に空港を利用した事があるとはいえ、チケットを取るのも一人で空港へ行くのも北海道へ行くのも初めてなので不安な事だらけだった。私はGoogleで検索をし何とか飛行機のチケットを取る事が出来た。
「もううちは寝るね。五時くらいになったらマンションから出て」
kurahaとの一連の流れを説明し、0時頃ゆかちゃんが就寝した。非常階段にいるとまだ警察がいるのだろうか。パトカーの音が良く聞こえ、非常階段にも誰かいるように思える。怖くて怖くて仕方がなかった。kurahaとは三時くらいまでやり取りが続いた。
「朝まで大丈夫?電話する?」
kurahaが心配して電話をするかと尋ねてきた。しかし、明日はkurahaも学校だ。
「明日学校でしょ?寝て大丈夫だよ」
私はこれ以上kurahaに迷惑をかけるわけにはいかないと思い、断った。本当は電話したかった。深夜に一人でいるのは怖かった。誰にも本当の気持ちを伝える事も頼る事も出来なかった。
私のわがままをこれ以上誰かに伝えるわけにはいかない。一人で生きていかないと。そう意気込み、またイヤホンをして音楽を聴いた。イヤホンをすると現実から離れられる。一人ではない気がした。
五時になり、まずは近くのコンビニで航空チケットの支払いをした。スマホの充電とバッテリーの充電、ゲーム機の充電をする為に再び東京駅のマックに向かった。マックで暫く時間を過ごし、ゆかちゃんからの提案で昨日行ったところとは別のネットカフェを行くように言われた。近くのネットカフェで十八時まで過ごし、もうかずまのマンションには迷惑をかける為、居られないので何処で過ごそうか迷った。年齢制限が緩いネットカフェをネットで検索すると、昨日行ったネットカフェが検索に引っかかった。一か八かそこのネットカフェに行く事にした。マスクをしている為か、すんなりと年齢確認される事なく店に入れた。昼間来た時とは違い、人が多く夜にそこで過ごすのは不安だった。Twitterを覗くとどうやらこの一日でkurahaが明日の為に色々と準備をしてくれたらしい。北海道へ行くのが楽しみだ。私の予定ではかずまが一人暮らしを始める一年後まで北海道へ居るつもりだった。その為、クミへも報告として北海道へ行く事を伝える事にした。しかし、
「もう知らね」
クミには迷惑を沢山掛けたので見放されるのも当然だろう。そう思っていたが、
「やっぱり面白そうだから応援する笑」
やはりクミは友達だった。応援すると言われた事が凄く嬉しかった。その後、kurahaの家に泊まる事を伝え、かずまとゆかちゃんには内緒で三人のグループを作った。『あいな北海道へ旅立つ』クミらしいネーミングだった。kurahaとクミは私が北海道へ行く事を応援して励ましてくれた。
「北海道の写真送ってな」
「色々大変な事はあるだろうけど。楽しんでこーい!!」
クミはあくまで家出では無く、旅行として楽しんできてほしいとの事だった。これから沢山の困難が立ち向かうだろう。警察に途中で捕まるかもしれない。それでも頑張って前向きに生きよう。そう思わせてくれた大事な友達だった。
そんな中、事件が起こる。なんとかずまの家に警察が来たらしい。どうやら手紙の指紋から交際相手であるかずまを特定したらしい。警察は私達が思っているよりも優秀だった。どうやらサイバー警察というネットに強い警察が動いているらしい。スマホの電波を拾っているらしいので今からスマホの電源を切るように言われた。スマホの電源を切る前に日付を見て私は今日がなんの日だか思い出した。今日はこないだ喧嘩して仲直りしたばかりの友達、瑞希の誕生日だ。しかし、LINEは出来ないと伝えてあったので瑞希のLINEを知らなかった。私はクミに頼み、瑞希のLINEを教えてもらった。私はどうしても祝いたかった。これが最初で最後のLINEになるかもしれないから。
「お誕生日おめでとう。ごめん。追加したけど暫くLINE出来ない。これだけ伝えたかった」
私は苦しい気持ちを抑えながらLINEを送り再び彼女をブロックした。その間に家庭教師からLINEがあった。話したい事と謝りたい事があるという事だった。私が返信をするとどこにいるのか聞かれたので
「すみません…それはお伝えする事ができません…でも心配はしないでください!」
私は家庭教師に返信をした。家庭教師にも罪悪感がいっぱいだった。私は色んな人を利用して傷付けてしまっている、その事に気付いていたが、気付かない振りをした。自己中心的に物事を捉えなければ、家に帰りたくなってしまうからだ。自分よりも他人を優先してしまいそうになるからだ。私は家出というミッションをクリアしなければならない。
もう一つやることがあった。羽田空港への行き方を調べる事だった。
「浜松町へ行くとええよ」
ゆかちゃんに聞くと新橋駅の隣の浜松町駅に行く必要があるらしい。私は女満別空港から北見バスターミナルへの行き方と共に紙にメモをした。スマホが無いとかなりきつい。ゲーム機はWiFi下でしかウェブサイトが使えなかった。正直無事に辿り着けるのか更に心配だった。心配よりも先に身体を休めないといけない。私は朝まで寝る事にした。
五時に起きてネットカフェを出る。浜松町駅までの行き方が分からなかった為、新橋駅から浜松町駅に行く事にした。新橋駅に無事に着いたが、東京は群馬に比べて電車の数が多い為、どの電車に乗れば良いか分からなかった。迷った末にスマホを一瞬だけ付けることにした。無事に浜松町駅へ行くことが出来たが、今度は浜松町駅から羽田空港への行き方が分からなかった。私は今度は勇気を出して駅員に聞く事にした。モノレールに乗るように言われたので、モノレールに乗る。モノレールに乗るのは初めてだったので、電車とは違う景色に驚いた。初めての体験。こういうのも悪くない、楽しいと初めて感じた瞬間だった。
羽田空港に着いた。女満別空港への便は十一時二十分発だったのでだいぶ時間に余裕があった。私は空港を散策してみる事にした。羽田空港は広くてお店も沢山ある為、飽きなかった。お店は閉まっていたが、見ているだけで楽しかった。マックがあったのでマックに寄って時間を潰す。十時ぐらいになり、そろそろ手続きを済ませる必要があったので色々な手続きを済まし、ついに飛行機に乗る事になった。空港は警察も居るため、パジャマ姿だと怪しまれるか心配だったが、何とか大丈夫だったらしい。
飛行機では一番安い飛行機だったからなのか、今まで乗ってきた飛行機よりも随分小さかった。途中強風の為なのか分からないが、大きく揺れて落ちるのではないかと心配だった。このまま落ちて死んだ方が楽なのかもしれない。そう思ったが、私は飛んでいる中、ずっと外を見ていた。北海道に近づくにつれ、雪が降って積もっている景色を見て新鮮な気持ちだった。私の住んでいる地域は全く雪が降らない。雪景色に囲まれた北海道は初めて見るに等しい程だった。五稜郭が見えてきて興奮した。北海道だ。ついにkurahaの住んでいる北海道だ。北海道は一回も行った事が無かった。人生のうちに一度は行きたい場所だった。
女満別空港へ着陸したとのアナウンスが流れた。女満別空港は羽田空港と比べると随分と小さい空港だった。しかし、中に入ると広く感じた。手続きを済ませ、座れる場所に移動する。空港はWiFiが飛んでいる為、kurahaに空港に着いた事を連絡する。十五時に北見バスターミナルに待ち合わせにした。時刻はまだ十一時半だったが、早めに移動する事にした。バス乗り場を探しに外に出ると信じらないないくらい寒かった。外は雪が降っており、関東の春としては信じられない光景だった。かずまから貰った膝掛けを身体に掛けながら震えながらバスに乗る。四十分ほどバスに乗ると北見バスターミナルに無事に到着した。どこで待って良いのか分からなかった為、色んな場所をウロウロとしていた。あっという間に時間が過ぎ、十五時を過ぎてもkurahaの姿が見当たらなかった。待ち合わせ場所がここで合っているのかすら分からなかった私は焦っていた。初めてkurahaと会うという緊張感もあるのだろう。来なかったらどうしようという不安も抱いていた。kurahaはそんな事しないと分かっていたが、最悪の事態も考えていた。
すると、十五時半を過ぎた頃にkurahaらしき人を見掛けた。kurahaもこちらを見て目を見開いた。
『あ、この人だ』
何故か分からないけどそう確信したのだ。私はkurahaらしき人に近付いた。すると、
「あいなちゃん…ですか?」
kurahaが話し掛けてきた。
「あ…はい!」
私はぎこちなく返事をした。
「よかったぁ~!居なかったらどうしようかと思ってた!」
kurahaは胸を撫で下ろすリアクションをした。
「いやあー私も来ないかと思ってドキドキしてたよ」
私は久しぶりに人と話せた事に喜びを感じ笑顔でそう答えた。
「それじゃ行こっか」
kurahaが先に歩き出した。どうやら自転車でここまで来たらしく、図書館の駐車場に停めてきたとの事なので図書館へ二人で歩いていった。
「荷物持つよ!」
kurahaは私のリュックを見てそう言った。重そうだと考えたのだろうか。しかし、さすがに持ってもらうわけにはいかない。私は遠慮したが、
「お客様だから」
kurahaは笑ってそう言った。
「その前にあれじゃな」
kurahaは図書館へ着いた所で立ち止まった。
「パジャマじゃ寒いだろうから服持ってきたからトイレでこれに着替えて」
kurahaは私に服とズボンを渡した。
「ええ!?絶対着れないよ」
kurahaは私と同じくらいの身長だが、体型が違うので着れるはずがない、そう思っていた。しかし、トイレで着替えてくると丁度良いサイズ感だった。
「めっちゃ丁度良かった」
私はkurahaに一人言のように呟いた。
「でしょ!?大き目のサイズ持ってきといて良かった」
kurahaは喜んだ表情で再び歩き出した。気付いたことがある。kurahaは私と初対面にも関わらず、表情やリアクションが大きい。私もそんなkurahaとは相性が良いのか話しやすかった。まるで初対面ではないようなそんな感じがした。自転車置き場の元へ歩いて行く。
「ようこそ北海道へ!」
kurahaに言われた瞬間にこれは旅なんだ、家出ではない。そう思った。これから先に起こる出来事はきっと楽しい物に違いない。
kurahaの家は北見バスターミナル、北見駅から
六キロ程離れていた。私はその事を聞いた瞬間に絶望した。何故なら空港や昨日までの東京で歩き回ったせいで足の疲れが残っていたからだ。それに加えて雪道で足場が悪かった。私はkurahaにある提案した。
「自転車さ、二人乗りって出来ないかな?」
以前に父と二人乗りをした事がある。無理難題では無い話だと思っていた。
「いいね、やってみる?」
kurahaは自転車に跨いだ。私はその後ろに乗ってkurahaが漕ごうとしたが、よろけて全く前に進めない。恐らく私の体重が重いからだろう。いくら力持ちのkurahaでも無理だろう。選手交代して私が前に乗り、漕ごうとする。すると、
「やばい転ぶ」
自転車が倒れそうになった。やはり無理らしい。
二人乗りは無理だったので、私はまた一つ提案をする。
「じゃあ一人が自転車乗って一人が走るのはどう?」
私はどうしてもこの距離を歩いていくのは無理だと感じた。一番最初にkurahaが乗り、私が走る。
「もう無理~…」
私は体力が無い為、百メートルくらいで力尽きる。自転車と同じスピードで走るのも疲れる…
私はkurahaと交代して自転車に乗る。kurahaは元テニス部だと聞いていたので私より断然体力があるだろうと考えていた。しかし、
「無理無理無理…」
kurahaも私と同じくらいの距離ですぐ息が切れる。どうやら私と同じく体力が無いらしい。親近感が湧いた。
「やっぱ歩いて行こうか」
私達の挑戦は無謀に終わった。くだらない事をしていたが、何故か楽しかった。
途中でイトーヨーカドーを見つけ、そこで休憩を取ろうとの話をした。正直安心した。もう既に足が限界だったからだ。時間も迫っている中、自分から休憩しようとは言えなかったのでkurahaの気遣いに感謝した。
イトーヨーカドーに入ると昭和のレトロの雰囲気を感じた。フードコートで休もうとの話だったので二人でフードコートへ向かった。椅子に座ると足の痛みが緩和されていく感じがした。
「お弁当作ったんだけど食べる?」
kurahaは予想外の言葉を口にした。まさか私にお弁当を作ってくれるとは全く予想していなかったのだ。そして私は飛行機に乗っている最中におにぎりをいくつか食べてお腹が一杯だった。
しかし、私の為に彼女は作ってくれたのだ。食べない訳にはいかないだろう。そして嬉しかった。母以外の誰かがお弁当を自分の為に作ってくれる事なんて今までに一度も無かったからだ。
「食べたい!」
お弁当を開くと丁寧に巻いてある卵焼き、花形になっている人参、ウインナー、紫の乗ったお米だ。それを見た瞬間美味しそうと感じた。母は料理がお世辞にも上手いとは言えない為、巻いてある卵焼きを見るだけで感動した。そして
味も甘くて物凄く美味しかった。卵焼きをよく見てみると、細かいピーマンらしき物が入っている。私はピーマンが苦手だったが、全くピーマンの味がしなくて美味しかった。人参も苦手だったが、軽く味付けがされているのだろうか。凄く美味しかった。
「美味しい!」
私は感動しながら何回も美味しいと呟いた。その度にkurahaが優しそうな表情でこちらを見ていた。暖かい。お弁当も。kurahaも。kurahaのお弁当は今まで食べてきた中で一番美味しかった。そして深い思いやりを感じた。私はあっという間に食べ切ってしまった。数時間前におにぎりをいくつか食べたとは思えない程だった。食べ終わった後は私のスマホが使用出来ない為、kurahaがゆかちゃんにDMをする。
「合流したよ!」
私はkurahaとゆかちゃんのやり取りを横で眺める。
「良かった。二人で楽しんで!これから先お金がかかるだろうからかずまくんの口座からお金振り込んでおこうか?」
ゆかちゃんもkurahaへの負担を気にしているらしい。私はかずまやゆかちゃんがお金持ちだと知っていたので、
「良いんじゃない?」
と提案をするが、
「いや、いい!」
kurahaは断った。金銭面で援助を受ければだいぶ楽になるのにと思ったが、この旅は私とkurahaの旅だ。二人には迷惑をかけられないのだろう。
私達はイトーヨーカドーを出て、再び歩き出した。限界が通り過ぎた頃、ようやくあと少しで着くようだ。途中にあったコンビニに寄り、ゆかちゃんから事前に用意するよう言われていたカイロを買ってから家に向かう。
「ここが家だよ」
kurahaは立ち止まった。大きな家で新しそうだった。
「お母さんとおばあちゃんの様子見てくるね」
kurahaはこっそり家に入った。作戦ではお母さんとおばあちゃんの隙をついて家に入るらしい。
「入っていいよ」
kurahaが小声で合図をした。私は無言でkurahaの後を着いていく。階段を昇る時もなるべく音を立てないようにしないといけない。二人の間に緊張が走る。ゆっくりと歩いて行き、ようやく部屋に着く。
「ふう…」
二人同時にため息を着く。ここまで辿り着くのに長い道のりだった。一安心をする。kurahaの部屋はぬいぐるみが並んでおり、本棚やテレビなど色々な家具がある。誰かの部屋に来る事も久しぶりだった。私は辺りを見渡した。kurahaの部屋は何故か落ち着いた。それは部屋に着いた安心感なのか久しぶりの安全な場所だったからなのかは分からない。
kurahaが夕食を作りに行ってくれるとの事だったので私は家族が部屋に来ても良いように毛布にくるまって布団が落ちているように見せかけた。いつバレるか分からない、それが怖かった。布団の中は暑くて息苦しくてkurahaが一刻も早く来てくれる事を祈りながら息を潜めていた。
kurahaが帰ってくると
「ごめん。お待たせ。暑かったよね?」
と気遣ってくれた。私は夕食も作ってくれたのに私の気遣いまでしてくれるkurahaを女神様だと感じた。
二人でkurahaが作ってくれたお肉を食べた。kurahaが焼いてくれたお肉は美味しくて私はまた感動した。kurahaが作る物は何でも美味しい。そして私は一つ疑問に思った事があった。
「部屋で食べてて家族に疑問に思われないの?」
私の家では家族が揃って食事をするのが常識だったからだ。
「私の家は個食なんだ」
どうやらkurahaの家はそれぞれ自分の部屋で食事を取るのが常識らしい。私は安心した。個食なら家族にバレる危険性は無い。
私達は食べ終わった後、kurahaに家出に至った経理とかずまとの出会いを説明した。
二○十八年 九月二十三日
かずまとTwitterで出会う
↓↓↓
九月三十日に付き合う
↓↓↓
十月八日初めて通話、kurahaに報告
↓↓↓
ゆかちゃん、さつきさんという幼なじみに出会う。
↓↓↓
クリスマスイブに初めて会う
↓↓↓
二月中に両親にかずまの存在がバレる。具体的には塾の外でかずまと会っていた事がバレた。
↓↓↓
付き合っている人は塾の人だと両親に話す
↓↓↓
三月九日にかずまと八時からの約束。こんな早い時間に遊びに行くのはおかしいと気付いた両親は私を外に出さなかった。帰りに両親を安心させる為にかずまと母を会わせる。
↓↓↓
三月十六日にクミを含む友達とお泊まりすると嘘をつき、かずまの家へお泊まりする。しかし、位置情報を切っていた事から東京に行ったのがバレる
↓↓↓
塾の先生に電話をし、かずまという名前は塾の生徒に存在しない事がバレる。両親が推測した結果、Twitterで知り合ったのではないかという考えに至る。
↓↓↓
三月十七日にかずまが私の両親に対して手紙を書くが、逆効果。両親に認めて貰えず、スマホやネットに繋がる物を没収された。しかし、かずまから念の為にと渡されていたゲーム機でゆかちゃんと連絡を取る。
↓↓↓
かずまの体調が私の両親のせいで悪化したとゆかちゃんから言われる。ゆかちゃんからどう責任を取るのだと問いただされる。
↓↓↓
かずまとの未来を想像し、批判をする両親に対して反抗する姿勢を取り、家出の決断をする。
大まかな内容をkurahaに説明した。しかし、kurahaは理解が追いつかない様子だった。無理も無い。この話はややこしい。ただ、両親と喧嘩をしたから家出をしたという簡単な話ではないからだ。私はメモに書きながら必死に説明をする。
「要は大人VS子どもって事だよ!私の両親と警察VS私とクラちゃんとかずまとゆかちゃん」
私はこれが一番分かりやすいだろうと考えた。そう。この家出は大人達へ反抗する為の物である。
「なるほど」
kurahaはこの例えに納得した様子だった。
私はkurahaに悩みを打ち明ける。
「このまま生きているのが辛い。」
私はこの先どうしたら良いのか分からなかった。かずまが一人暮らしするまで一年間kurahaの家に泊まらせてもらう訳にもいかないし、このまま家に帰るのも怖い。私はこの先の未来が見えなかった。今は楽しいが、いずれ決断をしなければいけない時が来る。それが怖かったのだ。ゆかちゃんは難病で長くは生きられない。余命幾ばくもない状態だったので私にかずまを託したのだった。そのゆかちゃんの想いに答えられる決断にしたかった。
「実は誰にも言ってなかったんだけど私も、難病なんだ。もう長くは生きられないんだよね。いつ死ぬか分からない。だからゆかちゃんの気持ち分かるんだ」
kurahaは伏し目がちでそう言った。それを聞いた瞬間に涙が溢れた。kurahaは長く生きられない?もうすぐ死ぬの?私は色々な想いが溢れる。
「だから、ゆかちゃんの分まで幸せになるの!君は幸せになる義務がある」
真剣な眼差しでkurahaはこちらを見た。
「ゆかちゃんの分まで幸せになるって強く生きるって約束出来る?」
私は涙が止まらなくて返事をする事が出来なかったが、首を上下に振った。私は強くない、すぐにマイナスな思考に至ってしまう。私は自分の殻に閉じこもり、周りを見ていなかった。周りを幸せにしたいとか思いながら自分が幸せになろうとしなかった。その事に気付かされた。私が幸せになると周りが幸せになるのだ。負の連鎖と同じように幸せの連鎖もあるはずだ。そんな大事な事も知らなかった。情けなくて泣く事しか出来ない自分を恥ずかしいと思った。kurahaはこんなにも必死に生きているのに。
「私も君らの結婚式行くまで死ねないわ」
kurahaは笑ってそう言った。
「誰かが泣いているのを見たくないんだ。だから湿っぽい話が嫌いなんだ。病気も誰にも話した事がない。でも何故かあいなちゃんには話せるんだ。」
kurahaに地元の友達さえも知らない事を教えて貰えたのが嬉しかった。それだけで特別感があるが、残酷な事実を知りたくなかったという気持ちもあった。しかし、そのおかげで私はkurahaと残りの人生を楽しむ事が出来る。私は二人で思い出を作りたい。そう思った。
「この病気は四十歳以上生きた人が居ないんだって。でも、私は四十歳以上まで生きてやろうと思う。長生きするんだ。」
私は未だにkurahaが私と同じように生きられない事を受け入れられなくて泣いたままだった。
しかし、今すぐ死ぬような病気ではないようなのでそこは安心した。kurahaにはずっとずっと長生きしてほしい。そう思った。
kurahaがお風呂に入らせてくれるとの事だった。どうやらお風呂は決まった時間に入らないと祖母に水道代がかかると文句を言われるらしい。私はkurahaがお風呂の外で人が来ないか見張ってもらってる中、急いでシャワーを浴びた。
お風呂から上がるとkurahaが体重計を用意してくれた。体重計に乗ると体重がだいぶ軽くなっていた。このまま家出を続ければ、痩せるのではというくだらない考えが思いついた。私はこれから先の事をワクワクしながら考えていた。
お風呂も入り終わり、髪の毛を乾かし終わったのでそろそろ寝ようかという話になったkurahaは床に寝ると言ってくれたが、申し訳なかった。しかし、身体も疲れていたのでkurahaの厚意に甘える事にした。久しぶりのベッドはふかふかで暖かくてすぐ眠れた。
朝になり、kurahaに起こされた。私は朝起きて一番に思った事を口に出した。
「やばい、トイレ行きたい」
私は未だに膀胱炎が続いていた。kurahaに家族の様子を確認してきてもらい、今行けるとの事だったので二人で急いで降りていった。しかし、私がトイレに入っていると、足音が聞こえてきた。私は嫌な予感がした。
「誰か入っているの?」
kurahaの母と思われる人物がドアノブをガチャガチャする。どうしよう。ここで出てしまったらバレてしまう。私は焦った。
「トイレ開かないんだけど壊れたかな?鍵どこにやったっけ?」
kurahaの母はkurahaの祖母のもとへ行き、トイレの鍵を探しているようだった。そしてkurahaの母と祖母がトイレの前へ来てドアノブをガチャガチャと確かめていた。このまま出て行こうか迷った時にkurahaからの掛け声があった。
「ごめん、もう出ていいよ」
とうとうバレてしまう。もうこの旅は終わってしまった。そう思いながらドアを開ける。
「もー!びっくりした!」
「男の人かと思ったわ」
kurahaの母と祖母はほっとした様子で私を見る。
「もうー!はるちゃんのお友達が泊まりに来てるなら早く言えばよかったのに」
kurahaの母は笑ってそう言った。良かった。どうやらkurahaの地元の友達だと思われているようだった。
kurahaは二人に私の事を説明した。部活が一緒の友達でクラスも小学校も違うと話した。私の名前を覚えておきたいとkurahaの祖母が言ったのですんなりと私は本名を言ってしまった。ぎこちなさはあったが、kurahaの母と祖母は受け入れてくれた。しかし、これでコソコソせずに済んだので見つかって良かったのかもしれない。
私はkurahaに失敗したバレンタインの事を話した。すると、kurahaは
「女子力上げよう!」
と言ってお菓子作りを提案してきた。私もそれに賛成し、生チョコを作る事になった。
kurahaの伯父の自転車をい借りていき、二人でスーパーまで向かう。初めて他人の自転車に乗るのと雪道という事もあり、覚束なかったが、直ぐに慣れた。スーパーでは大量の板チョコと生クリームパックを購入した。百円ショップにて飾り付けも買おうとの話だったので隣にあった百円ショップに向かう途中にトイレに行きたくなった。私はkurahaに待っててもらい、急いでトイレに向かう。残尿感もあり、排泄した後に痛みがあるので辛かった。
百円ショップにて飾り付けを選んでいる最中にまたもやトイレに行きたくなったので途中でトイレに走る。私が何回もトイレに行くのをkurahaは疑問に思うだろうと思い、膀胱炎の事を伝える事にした。
「それは辛かったね」
kurahaは私に同情してくれた。本当に辛い。まさか家出をしている時に重なってしまうとは思いもよらなかった。
百円ショップでの会計が終わり、お昼を買いに行った。どうやら五百円で海鮮丼が買えるらしい。私の住んでいる地域では千円以上している海鮮丼が多かったので驚いた。やはり海鮮が有名な北海道は安く買えるのだろうか…。そこは海鮮丼専門店らしく、メニューが豊富にあった。全部五百円なんて信じられなかった。
家に帰り、部屋に二人で購入した海鮮丼を持って行った。私はワクワクした気持ちで一杯だった。刺身を一口食べると感動した。やはり北海道の刺身は美味しい。別格だった。今まで食べた海鮮の中で一番美味しい。私はあっという間に食べ終わってしまった。こんなに美味しい食べ物が食べられるなんて北海道の人は幸せ者だなと思った。私は海鮮が好きなので北海道にずっと住みたいくらいだった。
お昼ご飯も食べ終わり、生チョコ作りをした。kurahaは慣れた手つきで私に教えてくれた。実際にkurahaが調理している姿を見て、女子力が高いと感じた。全てが私よりも歳上に見えた。kurahaは記念に作っている所を動画撮影すると言ってきた。私は恥ずかしくてフレームアウトしていたが、せっかくの記念だ。私も積極的に動画に映るようにした。生チョコを作っている間は二人とも笑いが絶えなかった。kurahaのおちゃめな所が面白かった。くだらない事をしたり、ふざけ合ったり、そんな時間を過ごした。
生クリームが余ったのでどうしようかという話になった。私はもうすぐかずまの誕生日だから
何か出来ないかとkurahaに相談した。すると、
「生クリームでHappy birthdayかずまって書くのはどう?」
良い考えだと思った。kurahaは机にサランラップを敷いてその上に生クリームを搾って書こうとの事だった。二人で協力して文字を書く。途中生クリームが床に落ちたりなどのハプニングはあったが、無事に完成する事が出来た。kurahaが写真を撮ってくれたので生クリームをスプーンで二人で食べる。もう生クリームは暫く要らないというくらい沢山食べた。
夜になり、冷蔵庫に入れていた生チョコを食べる。美味しかった。二人で一緒に作った生チョコは普通の物より美味しく感じた。
三月二十五日
母の誕生日だった。複雑な気持ちを抱きながら今頃家族は何をしているのだろうかと想像した。家出は正しい事だったのだろうか。罪悪感を感じた。しかし、やり遂げなくてはならない。中途半端の気持ちで北海道に来たわけではないのだから。そう思っても憂鬱な気分が続いた。
今日はkurahaと自転車でカラオケに行く事になった。誰かとカラオケに行くのは久しぶりだったので楽しみだった。カラオケまでは距離があったので二人で会話をしながら自転車を漕いだ。
「クラちゃん迷惑かけてごめんね、」
私はkurahaに思っていた事を打ち明けた。
「警察から追われてるなんて冒険じゃん!非日常で楽しいよ」
冒険…確かに私も非日常だと感じていた。こんな事は気軽に体験出来る事ではない。kurahaの言うように前向きに捉えようと考えた。
「冒険か…この話、本に出来ちゃうね」
私は笑ってそう言った。
「いいね」
kurahaも乗り気のようだ。
「いつかこの話を本にしよう。」
二人で約束した。
カラオケに着き、二人で交互に歌った。その中でkurahaが歌っていた一曲が印象に残る。ボカロのバラードの曲だ。kurahaがあまりにも感情的に歌うので私も感動してしまった。私はこの曲はkurahaにとって感情を乗せられる大切な曲なのだろう。そう思った。
夜になり、kurahaが一階に用があるとの事だったので一人で部屋で待っていると、イラついた表情でkurahaは部屋に入ってきた。恐らく何かがあったのだろう。
「どうしたの?」
私はkurahaに尋ねた。
「もうこの家にはこれ以上泊められないみたい」
私は絶望した。これ以上泊められないという事はもう帰らなくてはいけないから。私は目の前が真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます